2025-06-26 デイリー新潮で言及されている「脱退一時金制度」とは、日本の年金制度において、一定の条件を満たした外国人労働者や日本人が、年金制度から離脱する際に、それまで納付した保険料の一部を一時金として受け取ることができる制度です。以下では、この制度の概要、制度の目的、支給要件、手続き、問題点や制度の見直し動向について詳しく解説します。
1. 制度の概要
「脱退一時金制度(だったいいちじきんせいど)」は、厚生年金保険または国民年金に加入していた人が、日本国内での居住をやめて出国するなどして年金制度から離脱した場合に、これまで支払った保険料に基づいて一定額の給付金を受け取ることができる制度です。主に、短期間だけ日本で働いた外国人が本国へ帰国する際に利用される制度として知られています。
この制度の背景には、短期的な滞在や就労により日本の年金制度に加入していたものの、将来的に日本で老齢年金を受け取る見込みがなくなった人たちへの「払い損」を防ぐという趣旨があります。年金制度は基本的に長期的な加入と給付を前提としていますが、これに該当しない人への一定の配慮として、脱退一時金が用意されています。
2. 制度の目的
脱退一時金制度の主な目的は以下の通りです。
- 短期加入者への救済措置:短期間だけ年金保険料を支払ったものの、年金の受給資格を得られない人に対し、支払った保険料の一部を返還することで公平性を保つ。
- 外国人労働者への対応:技能実習生や特定技能制度などを通じて日本で働く外国人労働者の増加に伴い、彼らが本国に帰国した後も年金を受け取ることができない場合に配慮。
- 制度への信頼維持:年金制度が「払い損」とならないようにし、制度への不信感を軽減する。
3. 支給要件
脱退一時金を受け取るには、以下のような要件を満たす必要があります。
国民年金の場合:
- 日本国籍を有していないこと
- 最後に国民年金の被保険者であった者であること
- 保険料納付済期間が6か月以上あること
- 老齢基礎年金の受給資格期間(原則10年)を満たしていないこと
- 日本を出国してから2年以内に請求すること
厚生年金の場合:
- 日本国籍を有していないこと
- 厚生年金に加入していたことがあること
- 保険料納付期間が6か月以上あること
- 老齢厚生年金の受給資格期間を満たしていないこと
- 日本を出国してから2年以内に請求すること
つまり、日本人はこの制度の対象にはなりません。対象者は基本的に外国人であり、年金受給資格を得ることなく本国へ帰国する人に限られています。
4. 支給額の算出方法
脱退一時金の支給額は、年金制度への加入期間と保険料の納付状況によって決まります。
たとえば、国民年金の脱退一時金は次のような形で計算されます:
- 支給対象期間が6ヶ月〜11ヶ月であれば、令和6年度(2024年度)の例で約49,770円。
- 12ヶ月〜17ヶ月であれば約99,540円。
- 18ヶ月〜23ヶ月であれば約149,310円。
厚生年金の場合は、加入期間や報酬額に基づき、報酬比例で一時金が算出されますが、保険料の「本人負担分」の一部しか戻らず、雇用主が拠出した分(会社負担分)は含まれません。
5. 手続き方法
脱退一時金を請求するには、以下の書類を日本年金機構に郵送する必要があります。
- 脱退一時金請求書
- パスポートのコピー(氏名、生年月日、出入国スタンプがあるページ)
- 銀行口座情報(海外送金が可能な口座)
- 基礎年金番号が分かる書類
請求は原則として、出国から2年以内に行わなければならず、期間を過ぎると請求権が失効してしまいます。
6. 制度の課題と問題点
脱退一時金制度には以下のような課題があります。
(1)払い戻し額が少ない
年金保険料として支払った額のごく一部しか戻らないため、「払い損」と感じる外国人も少なくありません。特に、厚生年金は報酬比例で保険料も高いため、その割に受け取れる金額が少ないと批判されがちです。
(2)手続きが煩雑
申請書類は日本語であり、日本国外からの郵送・手続きも求められるため、言語や制度理解の壁があります。また、期限を過ぎてしまったことで請求できない例も多発しています。
(3)制度の周知不足
外国人労働者に対して制度の説明が十分にされていない場合があり、多くの人が制度の存在自体を知らないまま帰国してしまうこともあります。
7. 制度の見直し・将来の動向
近年では、日本で働く外国人労働者が増加する一方で、脱退一時金制度に対する国際的な批判も強まってきました。OECDなどからは「社会保障協定を結んでいない国出身者に対して不公平」との指摘もあります。
また、日本政府は一部の国と社会保障協定を締結しており、協定国出身者については、年金加入期間を相互に通算することで、将来的な年金受給が可能となる場合もあります。これにより、脱退一時金制度を利用する必要がないケースも出てきています。
8. まとめ
脱退一時金制度は、短期間だけ日本の年金制度に加入した外国人に対する一定の補償措置として重要な制度です。しかし、払い戻し額の少なさや手続きの煩雑さ、制度の認知不足など、運用上の課題も多く残されています。今後、外国人労働者の受け入れが拡大する中で、制度の見直しや社会保障協定の更なる整備が求められるでしょう。
この制度は一見すると外国人労働者向けの小さな制度に見えますが、日本の年金制度全体の信頼性や国際的な公平性を支える一要素として、今後もその在り方が問われることになります。