日本においてスリランカ人が中古車輸出業に参入する動きは年々顕著になっている。(北海道ニュースUHB 2025-08-06)日本の港湾都市ではスリランカ人によって設立された輸出業者が急増し、オークション会場やヤードにはその姿が目立つようになった。単なる偶然ではないこの現象の背後には、スリランカ国内外の複合的な要因が存在する。特に近年、スリランカ政府が実施した輸入規制の緩和は、この動向に大きな影響を与えている。本稿では、なぜスリランカ人が日本で中古車輸出業に関心を寄せるのかについて、国内の制度、日本の市場構造、そしてスリランカ側の需要と政策を踏まえて分析する。

1. スリランカ国内における日本車の高い需要

スリランカでは、長年にわたって日本製の中古車に対する需要が高い。耐久性、燃費性能、修理のしやすさに定評のあるトヨタやホンダ、スズキといったブランドは、都市部だけでなく地方においても圧倒的な人気を誇る。新車の価格が高額であることや、為替変動の影響で輸入コストが高騰しやすい事情から、一般消費者にとっては中古車が実質的な選択肢となっている。

特に注目すべきは、2025年2月からスリランカ政府が5年ぶりに自動車の輸入を条件付きで再開した点である。この規制緩和により、海外から中古車を再び輸入できるようになったことは、輸出業者にとって大きなビジネスチャンスとなった。過去の経験を活かし、すでに日本にいるスリランカ人たちはこの変化を敏感に察知し、事業を再始動または新規参入する動きを見せている。

2. 日本の中古車市場の優位性

日本国内の車検制度や自動車税制により、一定年数を経た車両の買い替えが奨励されている。この結果、比較的低走行で整備の行き届いた中古車が市場に多く出回っている。こうした車両は、海外にとっては「高品質・低価格」の非常に魅力的な輸入対象となる。日本では全国規模でオートオークションが整備されており、外国人でも代行業者を通じて比較的容易に車を仕入れることが可能である。

また、日本の輸出インフラ(港湾施設、通関手続、船会社)も非常に整っており、輸出業としてのハードルは意外に低い。小規模な資本でも参入できるこの業界は、起業を目指すスリランカ人にとって格好の選択肢となっている。

3. 経営・管理ビザ取得の一手段として

スリランカ人が中古車輸出業に関心を持つ背景には、日本の在留資格制度の存在もある。日本では、外国人が一定の資本を用いて事業を開始することで「経営・管理」の在留資格を取得できる制度がある。実際、中古車輸出業は初期投資の額が比較的少なく、短期的に売上を立てやすいモデルであるため、ビザ取得のための事業計画を立てやすい業種でもある。

一部では、行政書士や支援業者がスリランカ人向けにビザ取得支援を行う過程で、中古車輸出を「おすすめの業種」として紹介しているケースもある。その結果、「起業」=「中古車輸出」という認識が一定程度、在日スリランカ人の中で定着しつつあるのが現状である。

4. 同胞ネットワークの力と経験共有

スリランカ人コミュニティは非常に緊密で、成功体験やノウハウの共有が活発に行われている。たとえば、日本で成功した中古車業者がSNSやチャットアプリで具体的な仕入れ方法、オークション参加方法、書類作成などの実務を共有すれば、他のスリランカ人もその道を追随しやすくなる。

加えて、スリランカ本国に家族がいる場合、現地で販売や登録手続きを分担し、いわば日スリランカ間の「国際的ファミリービジネス」として事業を展開することも可能である。このような連携構造は他国人コミュニティにはあまり見られない特徴である。

5. スリランカ国内の政策的後押しと制限付き緩和

上述の通り、スリランカ政府は2020年以降、外貨不足対策として自動車の輸入を全面停止していた。しかし、2024年以降の外貨準備高回復とIMF支援のもと、2025年2月にはついに自家用車の輸入を再開した。ただしこれは「完全な自由化」ではなく、「条件付きの管理された緩和」である。たとえば、登録義務、罰則付きの税制、年間輸入台数の制限などが設けられており、制度上の複雑さも残っている。

それでも、輸入自体が解禁されたことのインパクトは大きい。これにより、輸出業者、特にすでに日本に拠点を持っていたスリランカ人にとっては、長らく止まっていたビジネスを本格的に再始動するまたとない機会となったのである。

6. 就労の選択肢の少なさと独立志向

日本にいるスリランカ人の中には、技能実習生や留学生として来日した者も多い。そうした人々にとって、日本企業での正社員登用の壁や、就労ビザの更新の不安定さは大きな問題である。そのため、「自ら事業を起こして在留資格を得たい」「自由な働き方を実現したい」と考える者が少なくない。中古車輸出業は、そうした独立志向に合致する業種として選ばれやすいのである。


結論

スリランカ人が日本で中古車輸出業に携わる背景には、①スリランカ国内での日本車人気、②日本市場の中古車の優位性、③経営・管理ビザ取得との親和性、④同胞ネットワークによる支援、⑤スリランカ政府による輸入再開と規制緩和、⑥就労環境の閉塞感への対応など、複合的な要因が存在する。特に2025年のスリランカによる輸入緩和は、この動きに拍車をかけるものであり、今後さらに中古車輸出業への関心が高まることが予想される。日本側としては、不正利用のリスクにも配慮しつつ、健全な事業展開を支援する枠組みの整備が求められる局面に差し掛かっている。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。