出入国在留管理庁の発表
令和5年の入管法改正のうち、難民認定申請3回目以降の外国人に関しては退去強制手続の例外対象としないとする部分の運用開始が6月に迫っています。
一方、難民認定制度に関して、先月26日、出入国在留管理庁から、「令和5年における難民認定者数等について」が公表されました。
このうち、「難民等と認定した事例等について」について考察してみたいと思います。
難民の定義
難民条約上の定義による難民とは「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するために国籍国の保護を受けることを望まないもの、及び、常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの」です。
難民と認定された事例における判断のポイント
「人種」及び「政治的意見」を理由とするもの
本国政府は(申請者が属する)A族に対する抑圧を強化しており、また、本国政府から、過激主義の影響を受けているなど反政府的な思想を有しているとみなされた場合には、本国政府から迫害を受ける蓋然性が高い。
「宗教」及び「政治的意見」を理由とするもの
(申請者が宗教面の指導者である)政治宗教団体AはB国政府(本国政府)と対立し、その抗争により多くの死者が発生してきた。
「特定の社会的集団の構成員であること」を理由とするもの
本国では、(申請者がそうである)同性愛者に対する差別意識が強く、これが本国の警察組織などの国家機関の内部にも残存しており、本国刑法A条を適用して逮捕する場合があるほか、他の法令を適用して恣意的な身柄拘束をする可能性があった。
「政治的意見」を理由とするもの
本国政府は活動を把握するために政治的反対勢力を国外で監視している旨の報告も認められ、さらに、B国、C国又はその他の国々とのつながりを疑われる個人(申請者が該当)又は集団は、本国政府当局から批判的に注視される危険性が相対的に高くなる。
人道配慮により在留許可を行った事例
本国の情勢や事情等を踏まえて在留許可を行った事例
本国においては、軍と準軍事組織である武装勢力Aとの間で戦闘が発生し、各地で死者が報告され、民間人を直接標的にした事件も発生するなど、無差別かつ常態的な戦闘が行われていることからすれば、申請者が帰国した場合、上記戦闘に巻き込まれる可能性は否定できない。
本邦での特別な事情を考慮して在留許可を行った事例
申請者は、本邦で日本人と婚姻し、同居し、相互扶助していることが認められ、また、既に申請者夫婦の間に出生した日本人実子を監護養育しており、婚姻の安定性・継続性が認められる。
難民等と認定しなかった事例
- 迫害理由として「人種」を申し立てたが、本国政府は、(申請人がそうである)A民族の言語や文化を尊重する政策に取り組んでいる。
- 迫害理由として「宗教」を申し立てたが、本国の憲法は、信教の自由を保障している。
- 迫害理由として「政治的意見」を申し立てたが、本国政府が政党関係者及び私人による違法行為を取り締まっていることなどが認められる。
- その他当然に難民該当性が無いもの
- 私人間トラブルの申し立て
- 本邦での稼働を希望
- その他本邦への滞在を希望
- 主旨を同じくする複数回申請
難民認定されると
難民認定されると、在留資格「定住者」が付与され、就業制限等なく日本に在留することが可能です。加えて、「永住者」の在留資格を得ようとした場合、独立生計者であることは必要とされません。
認定/不認定までのステップ
事例を見る限り、その判断ステップは以下のようなものと解されます。
- 提出された資料から、申請者が本国に戻り迫害を受ける可能性が高いか否か
- YESの場合
- 本国政府自身が迫害を肯定する可能性があるか
- YESの場合→難民認定
- NOの場合→難民不認定(但し人道上の理由から在留許可)
- 本国政府自身が迫害を肯定する可能性があるか
- NOの場合
- 人道上の配慮から庇護すべきか(迫害でなく紛争に巻き込まれる等)
- YESの場合→難民不認定(但し人道上の理由から在留許可)
- NOの場合→難民不認定(審査請求、収容、仮放免含む退去強制手続へ)
- 人道上の配慮から庇護すべきか(迫害でなく紛争に巻き込まれる等)
- YESの場合
まとめ
難民申請が認定されるかどうかは、つきつめれば、外交関係上の相手国への配慮・忖度のようなものなのだと思います。すなわち、二国間関係で相手方となる、相手国政府と基本的人権という価値感を同一にしているか否か、YESであれば、実態を伴っていなくとも、認定しない、ということなのでしょう。本国での治安が著しく悪いという理由で、難民と認定してしまうと、本国政府に代わる統治行為ということで内政干渉とも言えます。その上で、人権上の配慮から、特別に在留を認めるということになります。
日本の難民認定率が先進国に比べて著しく低いというのは、人権配慮が足りないというよりも、他国への忖度が過ぎる(強く言わない文化)というような気がします。
単純に難民認定された割合だけを見るのではなく、今回制度化された補完的保護制度、難民申請手続の結果としての人道的配慮からの在留許可、そして、やはり今回制度化される在留特別許可申請手続の結果をトータルで見る必要があると言えます。
標準処理期間
ちなみに、難民認定について申請から結果が出るまでの標準処理期間は、令和3年で32.2か月 と長くなる一方です。改正入管法においても、難民認定申請2回は、退去強制手続の例外対象ですので、こちらの状況を改善しないと、当該法改正の効果はあまり期待できないのかもしれません。(2回申請で単純に5年特定活動で滞在できることになります)