以前に日本での在留経験のある申請人について、在留資格証明書認定(以下「認定」と呼びます。)交付申請を行ったところ、入管庁から、以前に日本に在留した期間の退職経緯等の説明や給与明細の振込記録提出を求められたとの話を聞きました。
在留資格変更(以下「変更」と呼びます。)許可申請や、在留期間更新(以下「更新」と呼びます。)許可申請においては、これらの事を申請時に説明しなければならない事は当然ですが、「認定」の場面においては、通常これらの説明を求められることはありません。
「更新」「変更」の要件
「更新」「変更」が許可されるにあたっては、入管庁から公開されている在留資格の変更,在留期間の更新許可のガイドラインのとおり、以下の要件が満たされている必要があります。
- 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
- 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること
- 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
- 素行が不良でないこと
- 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
- 雇用・労働条件が適正であること
- 納税義務を履行していること
- 入管法に定める届出等の義務を履行していること
1を在留資格該当性、2を上陸許可基準適合性と呼びます。入管法20条3項(「変更」)、21条3項(更新)に、”適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができる。”とあり、3~6については、「狭義の相当性」と呼ばれています。
まとめれば、「変更」、「更新」にあたっては、在留資格該当性、上陸許可基準適合性、狭義の相当性が全て認められれば、許可することが”できる”ということです。
”できる”なので、入管に裁量余地があります。
在留資格認定証明書が交付される要件
入管法施行規則第6条の2第5項により、以下の条件が満たされることが必要です。
- 旅券及び査証が有効であること
- 活動が虚偽でないこと
- 在留資格該当性があること
- 上陸許可基準に適合していること
- 滞在予定期間が在留期間を定めた入管法施行規則の規定に適合すること
- 入管法第5条1項に定める上陸拒否事由に該当しないこと
入管法施行規則第6条の2第5項の表現は、”条件に適合していることを立証した場合に限り、在留資格認定証明書を交付するものとする”なので、入管庁に裁量は無く、”羈束行為”と考えられています。(条件が満たされた申請であれば必ず交付しなければならない)
「認定リセット」
以上からわかるように、「認定」の場面において、”狭義の相当性”は求められません。
例えば以下のような場合において、「更新」や「変更」の許可がスムーズに受けられないようなことが見込まれる場合には、いったん出国、在留カードを返納し、改めて”まっさらな”状態で、「認定」を申請することが”おすすめ”とされています。
私はこれを「認定リセット」と呼んでいます。
- 事情により付与された在留資格に変更があった(離婚により”日本人の配偶者等”でなくなった、会社を解雇されやむをえずアルバイトをしてしまった等)のに、「変更」を行わないまま滞在していた。
- 何度も転職を繰り返していたのに、所属機関の届出を全く出さなかった。
- 労働基準法に違反する形で就労を続けていた
- 等々
実際のケース
ところが、冒頭述べたように、「認定」申請の場面で、以前に日本に在留した期間の退職経緯等の説明や給与明細の振込記録提出を求められたとのこと、これらは以前に滞在した「在留状況」であり、「変更」及び「更新」の際に要件となる”狭義の相当性”にあたるものです。
「認定」の際に、これを求める法的根拠は見当たりません。”狭義の相当性”は、刑罰に処せられたことがあるか等を列挙する上陸拒否事由にあたるような重いものでも無いのです。
「認定」は出すものの、
- 以前、届出義務を履行していなかったため、通常1年付与する在留期間が半年とされる。
- 以前の雇用者に労働基準法違反が疑われる場合に、その雇用者を要注意機関としてブラックリストにのせ、以降の審査をより厳正に行う。
というようなことは考えられます。確かに入管庁の立場を慮れば尤もなことです。
しかし、資料提出を求められその提供を拒んだ、あるいは出した結果により、「認定」が認められないということは、法的に許されないのではないかと思っています。実際に不交付となるケースはあるようで、その不交付理由が知りたいものです。
まとめ
法的根拠はわからないものの、以前に在留したことがある方の「認定」申請については、その際の在留状況を確認し、何かしらの問題がある際は、そのことを補足説明すべきといえます。
即ち「認定リセット」は万病の薬では無いということです。