ハフポスト日本版の記事(2024/09/20)が「母語教育」の重要性について記述しています。

日本における在留外国人の増加は、労働力不足の解消やグローバル化の進展といった側面から歓迎される一方、教育の分野においては多言語・多文化への対応がますます求められるようになっています。このような状況において、日本語教育の重要性はますます高まっていますが、同時に在留外国人の子どもたちに対する母語教育の必要性についても、より一層の関心が寄せられています。母語教育は、単に言語学習の問題にとどまらず、子どもの成長や社会統合において非常に重要な役割を果たすため、その重要性について深く考察する必要があります。

1. 母語教育とは何か

母語教育とは、子どもが家庭や地域社会で最初に習得した言語、すなわち「母語」を用いて行う教育のことです。母語は、幼少期からの言語発達において最も自然な言語であり、認知や感情の表現、社会的な交流において基盤となるものです。母語教育は、子どもが持つ母語を学びの媒介とし、その言語能力を高めながら、知識や技能を習得するための手段として行われます。また、母語教育は、単なる言語能力の向上を目指すだけでなく、個々の子どもが自分の文化的背景を理解し、アイデンティティを確立するための重要な過程ともなります。

2. 日本における外国人児童の現状

近年、日本国内の外国人住民は急速に増加しています。法務省の統計によると、2023年時点での在留外国人数は約300万人に達し、その中には多くの外国人児童・生徒が含まれています。これらの子どもたちの多くは、日本語を十分に習得していない状態で日本の学校に通うことを余儀なくされています。文部科学省によれば、2022年度に日本語指導が必要な外国人児童生徒数は約54,000人に上り、過去最高を更新しています。

日本語教育の充実が求められる一方で、彼らの母語教育が十分に提供されているとは言い難いのが現状です。日本の公教育制度は、基本的に日本語による授業が中心であり、外国人児童が母語で学ぶ機会はほとんどありません。その結果、彼らは日本語を学ぶ一方で、母語の能力が衰退してしまうという問題に直面することが少なくありません。これにより、家庭内や母国とのコミュニケーションが難しくなり、アイデンティティの喪失や自己肯定感の低下を招く危険性が指摘されています。

3. 母語教育の重要性

母語教育の重要性は、子どもの全体的な発達や学習能力の向上に深く関連しています。以下に、母語教育が果たす主な役割について述べます。

3.1 認知発達への影響

母語は、子どもの思考や感情を形成する上で重要な役割を担います。幼少期に母語で培った認知能力や問題解決能力は、他の言語で学習する際にも大きな助けとなります。研究によれば、母語でしっかりとした言語能力を身に付けた子どもは、第二言語の習得も容易になるとされています。これは、母語が学習の基盤となることで、新しい知識やスキルを効率的に習得できるためです。

もし母語教育が十分に提供されない場合、子どもは自分の思考を十分に表現できず、学習内容の理解にも影響を及ぼす可能性があります。また、母語の喪失は、学力の低下だけでなく、言語能力全体の発達にも遅れをもたらすことがあるため、教育の質を高める上でも母語教育は欠かせません。

3.2 アイデンティティ形成と自己肯定感

母語は、子どもが自分自身を理解し、他者と関わる際の重要なツールです。母語を通じて家族や地域社会との結びつきを深めることで、子どもは自分のルーツを理解し、アイデンティティを確立していきます。しかし、母語が学校であまり重視されず、子どもが日本語ばかりを学習する環境に置かれると、自分の文化やルーツに対する疎外感を抱くことがあります。これは、特に第二世代や第三世代の外国人子女において顕著であり、アイデンティティの混乱や心理的な不安定を引き起こすことが報告されています。

母語教育を通じて、子どもたちは自分の文化的な背景を肯定的に捉え、他者との違いを尊重しながら、自分自身に自信を持つことができます。母語を学び続けることは、自己肯定感を高め、異文化との橋渡しをする上で重要なステップとなります。

3.3 家庭内コミュニケーションの維持

外国人児童の多くは、家庭内で母語が使用されていますが、学校での教育が日本語に偏ることで、母語の能力が低下し、家族とのコミュニケーションが困難になることがあります。特に親世代が日本語を十分に話せない場合、家庭内での意思疎通がスムーズにいかず、親子間の関係に問題が生じることがあります。母語教育が充実していれば、子どもは家族との関係を深め、家庭内での協力やサポートを維持することができるでしょう。

3.4 多文化共生社会の実現

日本が多文化共生社会を目指す中で、母語教育の重要性はさらに増しています。母語教育は、外国人住民が自分たちの文化や言語を維持しながら、日本社会に貢献するための一助となります。母語を学びながら、日本語や日本の文化を習得することで、外国人は自分のアイデンティティを尊重されつつ、社会の一員としての役割を果たせるようになります。また、多文化共生社会においては、互いの文化や言語を理解し尊重することが重要です。母語教育を通じて、子どもたちが異なる文化や言語に触れる機会を持つことは、将来の社会において共生を実現するための土台となります。

4. 日本における母語教育の課題

日本において、母語教育はまだ十分に整備されているとは言えません。現在、日本の公教育制度では、外国人児童の母語教育を体系的に支援する枠組みは整っておらず、多くの場合、家庭や地域社会に頼る形となっています。また、日本語教育に重点が置かれるあまり、母語教育が二の次にされることが少なくありません。このような状況を改善するためには、次のような施策が必要です。

1. 母語教育の制度化: 外国人児童が母語を学ぶ機会を保証するため、母語教育のカリキュラムを整備し、専門の教師を育成することが求められます。

2. 多文化共生教育の推進: 母語教育を含む多文化共生教育の重要性を広く認識し、学校や地域社会全体でその取り組みを進める必要があります。

3. 家庭との連携強化: 家庭内での母語使用を奨励し、家庭と学校が協力して子どもの言語発達を支援する体制を整えることが大切です。

5. 結論

日本における在留外国人の増加に伴い、日本語教育の必要性が高まっている一方で、母語教育の重要性を見過ごすことはできません。母語教育は、子どもの認知発達やアイデンティティの形成、家庭内コミュニケーションの維持、多文化共生社会の実現において欠かせない役割を果たします。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。