昨年6月に成立した改正入管法(本年6月15日全面施行)については、特に難民申請3回目以降の人を強制送還する規定が盛り込まれていることについて、批判の声がやみません。(難民ら115人参加 「改悪入管法廃止」渋谷でデモ, 2014/03/11東京新聞)

当改正については、他にも在留特別許可申請制度、補完的保護制度の創設など、難民保護の観点から評価すべき点がありますので、改めて述べておきたいと思います。

現行:入管法50条1項

現行入管法50条1項は、在留特別許可の要件を以下のように定めています。

(法務大臣の裁決の特例)

第五十条 法務大臣は、前条第三項の裁決に当たつて、異議の申出が理由がないと認める場合でも、当該容疑者が次の各号のいずれかに該当するときは、その者の在留を特別に許可することができる。

(1)永住許可を受けているとき(2)かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき、(3)人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき、(4)その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき

改正:入管法50条1項

一方、改正入管法の同条同項の各号は以下となります。

(1)永住許可を受けているとき(2)かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき、(3)人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき、(4)難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けているとき、(5)その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき

上記のとおり、難民、補完的保護対象者の認定を受けている場合が、在留特別許可の要件として新たに追加されています。

あくまで在留特別許可は、法務大臣の裁量によるので、認定を受けているからといって必ず許可されるものでもありませんが、許可するか否かを判断するにあたり、法務大臣はこのことを必ず判断要素に加えなければなりません。(ポイント1.法定要件該当性:裁判となった場合で、判断要素に加えられなかったことが明らかな場合は違法となる可能性が高いと思われます。)

現行ガイドライン

現行の在留特別許可は申請制度に基づくものではなく、あくまで退去強制手続の三審制の最後のステップにおいて、法務大臣が異議申し立てに対して理由が無い場合でも、現行50条1項の各号に該当する場合は、在留を特別に許可できると定めています。

このため、どのような場合に特別に許可されるかを明確にするため、ガイドライン(現行))が公開されています。

現行ガイドラインにおいては、難民に関する要素(難民認定されているか、或いは難民認定申請中であるか否か)は一切記載されていません。

新ガイドライン

今月(令和6年3月)、在留特別許可に関する新ガイドラインが入管庁のホームページに公開されました。

当ガイドラインで特筆すべきは、下記の記載になります。

7 人道上の配慮の必要性 (2)当該外国人が、難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けていなくとも、その本国における情勢不安に照らし、当該外国人が帰国困難な状況があることが客観的に明らかであること

すなわち、難民(補完的保護含む、以下難民等)の認定がされていない場合(難民等の認定申請中、或いは申請すらしていない場合)でも、在留特別許可を与えるか否かの判断過程に、当該観点からの要素を考慮に入れなければならないということになります。(ポイント2.裁量権の濫用(実体的判断過程統制審査の観点から):裁判となった場合で、判断要素に加えられなかったことが明らかな場合は違法となる可能性が高いと思われます。)

従来の判例

東京地裁平成19年4月13日判決

(在留特別許可を与えずして退去強制処分としたことは)”難民に該当するという当然に考慮すべき極めて重要な要素を一切考慮せずに行われたものであることなどから,法務大臣の裁量権の範囲を逸脱する違法な処分”としました。

東京地裁平成20年2月8日判決

難民認定申請をした在留資格未取得外国人に係る退去強制手続については、同項目(入管法50条1項)を適用しないこととしている(入管法61条の2の6第4項)。このように、入管法が難民申請認定をした在留資格未取得外国人に係る退去強制手続について入管法50条1項の適用を除外したのは、難民認定申請をした在留資格未取得外国人については、入管法61条の2の2において、法務大臣が難民認定手続の中で本邦への在留の拒否について判断することとしたことから、法務大臣が退去強制手続の中で入管法49条1項に基づく異議の申出に対する裁決をするに当たっては、異議を申し出た者が退去強制対象者に該当するかどうかという点に係る特別審理官の判定に対する異議の申出に理由があるかどうかを判断すれば足りるとしたものと解するのが、その分離解釈上相当である。

(山脇 康嗣 入管法判例分析 日本加除出版 P285より判旨抜粋)

2つの判例の要約

上記2つの判例は真逆の結論です。1つめは、入管法2条3号の2に定める「難民」に該当するにも関わらず、それを考慮に入れなかった処分は違法であるという趣旨、2つめは、難民該当性は難民認定申請手続の中で判断されるものであるから、退去強制手続(の在留特別許可の判断)において、難民に該当するかどうかは判断する必要はないという趣旨です。

まとめ

上記2つの判例が全く違う結論になることからわかるように、従来の在留特別許可において難民該当性を考慮する必要性は必ずしも明確ではありませんでした。

司法がそうであったならば、入管庁の判断はさらに否定的であったのであろうと思います。

今回の改正は、法律とガイドラインに明確に規定することで、難民等の該当性判断は、在留特別許可の手続の中で、入管庁の審査を強く羈束することになります。

すなわち、上記ポイント1に述べたように、法律に明確に規定されたことで、まず「認定」の存否を考慮すること。ポイント2に述べたように、「認定」されていなくとも、保護すべき客観的事実があれば、そのことを考慮することが必要とされ、前者がなければ法定要件該当性の観点から、後者がなければ裁量権の濫用として、在留特別許可を付与しないことが違法となるのです。

“難民申請3回目以降の人を強制送還”という規定にのみ焦点があたっていますが、制度化される在留特別許可を活用することにより、総合的には人権に十二分に配慮した入管制度となることを願います。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。

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