在留資格の不正更新容疑 フィリピン人女と日本人男逮捕―警視庁(2024/01/16時事ドットコムニュース)によれば、

“容疑者(日本人男)は「一緒に暮らしたことはない」とした上で、「更新の件は知らない」と否認しているという。逮捕容疑は共謀の上、同居の事実がないのに、同居を継続するという内容の「在留期間更新許可申請書」を作成(中略)3年間の在留期間更新許可を得た疑い。(中略)2人は2019年2月に婚姻届を提出した。その後、カリーノ容疑者は「日本人配偶者」として、同様の手口で複数回にわたり在留資格を更新し続けていたとみられる。”

とのこと。

同居の事実が一切無いようですので、「日本人配偶者」(正確には「日本人の配偶者等」という在留資格)の該当性は無く、典型的な偽装結婚といえます。

さて、どこまでが”偽装”になるのでしょうか。例えば週末婚でも該当性は認められるのか、或いは婚姻届が提出されており法律上の婚姻が認められる必要があるのか、内縁でもよいのか、といった問題について述べてみたいと思います。

入管法上、”日本人の配偶者”とは、”日本人の配偶者の身分を有する者”として定義されますが、それ以上のことは定められていません。

このことを考えるには、入管庁の審査要領(これはホームページ等で公開されているものではなく、情報公開請求により入手することができます。全て内容が公開されるものではなく黒塗りされていない部分も多々あります。)や裁判例が参考になります。

1)同居の程度

審査要領には、”法律上の婚姻関係が成立していても、同居し、互いに協力し、扶助しあって社会通念上の夫婦の共同生活を営むという婚姻の実体を伴っていない場合には、日本人の配偶者としての活動を行うものとはいえず、在留資格該当性は認められない。社会通念上の夫婦の共同生活を営むといえるためには、合理的な理由がない限り、同居して生活していることを要する。”とあります。

一方、平成8年5月30日東京高裁判決は、「婚姻関係が冷却化し、同居・相互の協力扶助の活動が事実上行われなくなっている場合であっても、未だその状態が固定化しておらず、当該外国人が日本人配偶者との婚姻関係を修復・維持し得る可能性があるなど、婚姻関係が実体を失い形骸化しているとまでは認めることができない段階においては、なお、社会通念上、同居・協力・扶助を中核とする婚姻関係に付随する日本人の配偶者としての活動を行う余地があるものというべきであるから、当該外国人に「日本人の配偶者等」の在留資格該当性を肯定するのが相当である。」と判事しています。

上記判例は、審査要領にも”参考”として記載されており、同居していない事実そのものをもって、該当性が無いと判断されることは無い、ということになります。

2)法律婚か内縁か

審査要領は、”配偶者として在留が認められるためには、双方の国籍国において法的に夫婦関係にあり、配偶者として認められていることが必要であるとともに、我が国においても配偶者として扱われるような者であることが必要であることから、内縁の配偶者は認められない“とあります。

一方、在留特別許可処分について争った平成20年2月29日東京地裁判決は、”憲法24条1項が、婚姻は両性の合意のみに基づいて成立するものである旨を定めていることに鑑みると、(中略)憲法上の保護が及ぶ「婚姻」の範囲は、婚姻の届け出によって成立する法律上の婚姻にとどまらず、婚姻の届出はしていないが事実上これと同様の事情にある関係、すなわち、内縁関係も含むものと解するのが相当である”と判示しています。(なお、本判決は控訴審において取り消され、控訴審判決が確定しています。(山脇 康嗣 入管法判例分析 日本加除出版P.356)

3)婚姻の本質

配偶者としての活動を行おうとする者の在留資格該当性については、平成14年10月17日の最高裁判決の以下判示が参考になります。すなわち、

「日本人の配偶者の身分を有する者としての活動を行おうとする外国人が「日本人の配偶者等」の在留資格を取得することができるものとされているのは,当該外国人が,日本人との間に,両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真しな意思をもって共同生活を営むことを本質とする婚姻という特別な身分関係を
有する者として本邦において活動しようとすることに基づくものと解される。」

本判決は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真しな意思をもって共同生活を営むこと が「婚姻の本質」と定義し、審査要領にも参考として記載されています。

法律婚か内縁か、や同居の程度等の外形的な事実は、あくまで「婚姻の本質」があるか無いかの判断材料であって、そのことのみをもって判断すべきではないということなのでしょう。

そして、「婚姻の本質」が無いのにも関わらず、法律婚をする(婚姻届を出してその状態を維持する)ことが偽装結婚であると言えそうです。これを根拠に在留資格を持とうとすることは、入管法違反となり犯罪になります。

「そこに愛はあるのか」ということなのでしょうね。さて、あなたの結婚に「婚姻の本質」はありますか(笑)?

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。

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