都市部への転職は、賃金だけの問題ではない
時事通信の報道(2026/10/8 外国人材、都市部への転職急増 外食業、地方で人手不足拍車 特定1号、受け入れ停止半年)は、外食分野の特定技能1号の新規受け入れ停止後、国内に在留する外国人材の獲得競争が激化し、地方から都市部への転職が増えていることを伝えている。注目すべきなのは、転職の理由が賃金だけではないという点である。現在の職場では特定技能2号を取得する機会がないと感じ、成長できる職場へ移ろうとする人もいる。
地方の雇用主にとって、これは重要な示唆である。外国人従業員が見ているのは、今月の給与だけではない。この職場で技能を高められるのか、責任ある仕事を任せてもらえるのか、日本での生活を長期的に展望できるのか。その問いに答えられるかどうかが、採用と定着を左右する。2号取得に向けた支援体制は、人材を育て、地域で働き続けてもらうための経営課題である。
2号取得を、本人の努力だけに任せてよいか
特定技能2号は、熟練した技能を要する業務に従事するための在留資格である。1号とは異なり、在留期間の更新に通算の上限がなく、要件を満たせば配偶者や子の帯同も可能となる。ただし、2号の取得自体が永住許可を意味するわけではなく、永住には別途の要件と審査がある。
2号への移行は、試験の案内を渡すだけでは実現しない。分野ごとの技能・日本語・実務経験などの要件を確認し、現在の能力と経験から、何をどの順序で積み上げるかを考える必要がある。本人が意欲を持っていても、日々の仕事が限られた作業に固定され、必要な経験を得られなければ、取得への道は開けない。
試験に合格するための学習と、熟練した人材として成長するための職務経験を結び付けることが重要である。「勉強して合格してください」と伝えるだけでは、雇用主として十分な育成体制とはいえない。
雇用主がつくるべき、具体的な成長の道筋
特定技能所属機関である雇用主には、採用段階から本人の希望を確認し、2号への移行を視野に入れた育成計画を示すことが求められる。これは、すべての雇用主に一律の2号取得支援義務があると述べるものではなく、継続雇用を実現するために必要な経営上の取組である。
例えば、どの業務を習得したら次の業務を任せるのか、いつから指導や管理に関わる経験を積めるのか、誰が育成を担当するのかを明確にする。必要な実務経験については、肩書を付けるだけで済ませず、実際の職務内容と従事期間を記録し、要件に照らして確認することが必要である。
併せて、学習時間を確保できる勤務調整、教材や講座の利用、受験に必要な休暇や移動への配慮などを検討する。技能の向上に応じた昇給や昇進の基準も示したい。成長しても待遇が変わらなければ、本人はその技能を評価する別の職場を探すだろう。2号取得支援は、人事評価や処遇の改善と一体で設計すべきである。
登録支援機関は、生活支援とキャリア形成をつなぐ
ここで大きな役割を担えるのが登録支援機関である。住居の確保や生活オリエンテーション、相談対応などの支援は、安心して働くための基盤となる。しかし、定着を考えるなら、現在の生活に加えて、将来への不安にも向き合う必要がある。
登録支援機関は、本人との面談を通じて、2号取得の希望、学習上の課題、職務経験への不安を把握し、本人の意向を踏まえて雇用主と育成方針を調整できる。試験日程の情報提供、学習計画の作成補助、日本語教育や専門講座への接続、進捗の確認なども有効である。在留手続については、必要に応じて申請取次を行う行政書士等と連携することが考えられる。
小規模な地方事業者では、一社だけで教材や講師、学習管理の仕組みを整えることが難しい場合もある。複数の受入れ企業を支援する登録支援機関が、共同講座やオンライン学習、事例共有の機会を用意すれば、企業ごとの負担を抑えながら支援の質を高められる。雇用主が職場での実践を担い、登録支援機関が学習と相談を支えるという連携が重要になる。
法定支援の範囲と、継続支援の価値を分けて考える
制度上、1号特定技能外国人支援計画に基づく支援の対象は特定技能1号であり、2号に移行した人に同じ法定支援義務がそのまま適用されるわけではない。また、2号試験対策の講座運営などが、当然にすべて法定支援へ含まれるわけでもない。登録支援機関が提供するサービスは、法定支援と、それを超える任意の支援を区別し、内容や費用負担を明確にする必要がある。
もっとも、法定支援の対象から外れたことと、支援の必要性がなくなることは同じではない。2号への移行後には、家族との生活、住居、子どもの教育など、新たな課題が生じ得る。本人が希望する継続支援を用意することは、登録支援機関が長期的な信頼を築く機会にもなる。
地方に残ることを、本人が選べる環境へ
都市部への流出を防ぐという課題は、外国人の転職を抑える発想だけでは解決しない。本人にとって、その地域に残ることが魅力的で、将来にもつながる選択となる必要がある。2号取得を支援した見返りとして退職を妨げたり、費用負担で事実上引き留めたりする対応は、信頼を損なう。
賃金や成長機会に加え、住居費、通勤、医療へのアクセス、地域とのつながりも、働き続ける判断に関わる。登録支援機関には、雇用主と外国人従業員だけでなく、自治体、日本語教室、地域の支援団体などをつなぎ、生活と仕事の両面から定着を支える役割が期待される。
外国人材の確保を、採用した人数だけで評価する段階は見直すべきである。本人が成長を実感し、将来を描き、安心して地域で暮らせるか。その条件を整えることが、雇用主の継続的な人材確保にもつながる。特定技能所属機関と登録支援機関が2号への道を共につくることは、地方の事業を支え、外国人従業員の選択肢を広げる取組なのである。
参考:時事通信「外国人材、都市部への転職急増」/農林水産省「外食業分野における外国人材の受入れについて」/外務省「特定技能制度の概要」