入管・難民政策とは、何のために存在するのか。
それは単なる管理でも、統制でもない。
人の移動を制限し、秩序を維持するための制度にとどまるものでもない。
本来それは、人類から不信と不幸を取り除き、
一人ひとりがよりよく生きるための基盤を整えるための手段である。
しかし現実には、制度はしばしば不信を生み、
不信はさらなる不信を呼び、
結果として不幸が再生産される構造が存在している。
なぜこのような状況が生まれるのか。
その根底には、「信頼」の設計が欠けているという問題がある。
信頼は、自然に生まれるものではない。
制度として設計され、運用として積み重ねられ、
はじめて社会の中に定着するものである。
そして現代において、この信頼は二つの層によって支えられる。
一つは、立法府と行政府が担保する「制度としての信頼」である。
透明性、一貫性、予測可能性。
これらが確保されてはじめて、人は制度を信頼することができる。
もう一つは、テクノロジーによって実現される「実装としての信頼」である。
手続の簡素化、情報の可視化、判断過程の補助。
これらは制度を現実の社会の中で機能させるための基盤となる。
制度だけでは、信頼は届かない。
テクノロジーだけでも、信頼は成立しない。
両者が重なり合ったとき、はじめて信頼は社会に根付く。
本書で提示する「均衡共生モデル」は、
この信頼を中核に据えた入管・難民政策の再設計である。
それは、国家の利益と個人の尊厳、
安全保障と自由、
受入れと統合といった対立しがちな価値を、
対立のまま固定するのではなく、
制度として均衡させ、共生へと導く試みである。
そしてこのモデルは、理論にとどまるものではない。
私は、在留外国人RegTech実証実験シリーズを通じて、
制度を実際に動かすための技術的基盤の構築にも取り組んでいる。
銀行、保険、住宅、雇用。
社会インフラの中に在留手続を組み込み、
制度と生活を断絶させない仕組みを実装すること。
それは、「制度としての信頼」を
「社会の中で機能する信頼」へと変換する試みである。
理論と実装は、分離してはならない。
理論なき実装は方向を失い、
実装なき理論は現実に届かない。
本書は、その両者を往復しながら、
入管・難民政策の新たな可能性を提示するものである。
信頼を設計し、信頼を実装する。
その先に、
不信と不幸を減らし、
より多くの人が安心して生きることのできる社会があると、私は考えている。
※本投稿は、均衡共生モデルにおける目次のプロローグに位置付ける内容として書き下ろしました。