1 日本には「在留制度」はあるが「移民インフラ」はない
日本には、外国人の在留資格を管理する制度として、出入国在留管理制度が存在している。
在留資格、在留期間、活動内容などを細かく規定し、制度としては非常に精緻に設計されている。
しかし、実際に日本で生活する外国人の視点に立つと、別の現実が見えてくる。
日本で生活するためには、
・銀行口座
・住宅契約
・雇用契約
・社会保険
・税務
・携帯電話
・教育
・医療
といった、さまざまな社会インフラと接続しなければならない。
ところが、日本では
在留制度と社会インフラが制度的にも技術的にもほとんど接続されていない。
その結果、
在留カードはあるが銀行口座が作れない
在留資格はあるが住宅契約ができない
雇用契約はあるが社会保険が適用されない
といった問題が、日常的に発生している。
日本の外国人政策の問題の多くは、
「移民の数」ではなく、
制度の接続不全(institutional disconnect)にある。
2 入管行政は「孤立した制度」になっている
現在の日本の制度構造では、
入管行政
金融行政
住宅政策
労働行政
地方行政
が、それぞれ独立して存在している。
たとえば、
銀行は在留資格の内容を理解していない
不動産会社は在留制度を知らない
企業は在留資格と労働法の関係を理解していない
といった状況が生まれる。
その結果、外国人本人が、これらの制度の間を自力で調整しなければならない。
これは制度設計として極めて非効率であり、
社会コストも大きい。
しかもこの問題は、外国人本人だけでなく、
企業
自治体
金融機関
にとっても大きな負担となっている。
3 世界ではすでに「Immigration RegTech」が始まっている
世界では近年、
Immigration × Regulatory Technology(RegTech)
という分野が急速に発展している。
これは、
・在留資格
・雇用
・税務
・社会保険
・金融
などの情報をデジタルで連携させ、
制度の接続を技術的に実現しようとする試みである。
例えば、
電子ビザ
デジタルID
入国前審査システム
AIによる在留管理支援
などが各国で導入されている。
しかし、日本ではこの分野はまだほとんど議論されていない。
4 日本で必要なのは「制度改革」だけではない
外国人政策の議論では、しばしば
受け入れ人数
在留資格
永住制度
といった制度論ばかりが議論される。
しかし実際には、より重要なのは
制度をどう接続するか
という問題である。
つまり、
入管制度
金融
住宅
雇用
自治体
を横断する社会インフラの設計である。
この問題は法律だけでは解決できない。
技術、データ、制度設計を組み合わせた
RegTech的アプローチが必要になる。
5 本シリーズの目的
本シリーズでは、
日本における在留外国人の生活インフラを、
制度
テクノロジー
金融
社会インフラ
という視点から再構築する可能性を探る。
これは、単なる政策提言ではない。
実証実験的な提案シリーズ
として、
・銀行口座
・住宅
・雇用
・在留管理
・デジタルID
などについて、
日本で実際に実装可能な仕組みを検討していく。
6 均衡共生モデルとの関係
このシリーズは、筆者が提唱している
とは別のストリームとして位置づけられる。
均衡共生モデルは、
移民政策
社会統合
国家の持続可能性
といった政策理念を扱うものである。
一方、本シリーズは
制度と技術の接続
という、より実務的・インフラ的な問題を扱う。
言い換えれば、
均衡共生モデルが
移民政策の哲学
だとすれば、
本シリーズは
移民社会のインフラ設計
である。
7 次回予告
第2回では、日本の在留制度の最大の弱点とも言える
銀行口座問題
を取り上げる。
なぜ日本では、
在留資格があっても銀行口座が作れないのか。
そして、
この問題はRegTechによって解決できるのか。
日本の移民インフラの核心に迫る。