産経新聞の記事

「代々木公園のイラン人」はなぜ激減したか ビザ免除停止の陰に入管幹部の英断(2024/05/03 産経新聞)を読んで、そういえばそんなこともあったなあ、という思いと、もうあれから30年以上が経つのかと、時の流れの速さを実感しています。

1990~1992年頃、東京の代々木公園と上野公園には、週末何千人ものイラン人が集結しており社会問題となっていました。

当時の私はまだ大学4年生~社会人1,2年め、入管政策や在留外国人については全く関わっていなかったため、ただ、そういうことがあったことだけを覚えている程度なのですが、本日、この記事を読んでその社会的背景と、なぜ入管制度上、そうしたことが起こり得たのかということがよくわかりました。かいつまんでポイントを以下に列挙します。

  • イランが混乱期であり多くの失業者が海外を目指したこと
  • 当時の日本がバブル経済の絶頂期であり、稼げる国とみなされていたこと
  • イランはビザ免除国であり、「短期滞在」の在留資格で簡単に入国・滞在できたこと
  • 日本の雇用者が不法就労助長に対する罪意識が低かったこと

ビザ免除について

ビザ免除とは

日本と一部の国・地域の間でそれぞれ取り決めを交わし、「短期滞在」の資格で入国する際には、ビザの提示を不要とするものです。

日本に入国する際は、空港の上陸審査でいずれかの在留資格を付与されることが必要ですが、このときビザ(査証)を提示することが必須となります。(ビザ(査証)は、外国人が、その国の日本の在外公館(外務省管轄)で、法務省より交付された在留資格認定証明書を提示することで発給を受けます。(ビザと在留資格の関係について))

この例外として、ビザ免除の取り決めを相互に交わしている国(ビザ免除国)のパスポートを保持している外国人の場合は、ビザの提示が不要となります。(したがって、前もってビザを取得する必要もなく、さらにその前の在留資格認定証明書交付申請も不要ということです。)

現在のビザ免除国

現時点におけるビザ免除対象は以下の71からなる国・地域となります。(外務省ホームページ

アイスランド, スペイン, ポーランド,アイルランド, スリナム, ポルトガル,アラブ首長国連邦, スロバキア, ホンジュラス,
アルゼンチン, スロベニア, マカオ,アンドラ, セルビア, マルタ,
イスラエル, タイ, マレーシア,イタリア, チェコ, メキシコ,
インドネシア, チュニジア, モーリシャス,ウルグアイ, チリ, モナコ,エストニア, デンマーク, ラトビア,エルサルバドル, ドイツ, リトアニア,オーストラリア, ドミニカ共和国, リヒテンシュタイン,オーストリア, トルコ, ルーマニア,オランダ, ニュージーランド, ルクセンブルク,カタール, ノルウェー, レソト,カナダ, パナマ, 英国,キプロス, バハマ, 韓国,ギリシャ, バルバドス, 香港,グアテマラ, ハンガリー, 台湾,クロアチア, フィンランド, 米国,コスタリカ, ブラジル, 北マケドニア,サンマリノ, フランス, ,
シンガポール, ブルガリア, スイス, ブルネイ, スウェーデン, ベルギー

問題の収束

問題を収束させたのは、ビザ免除措置をイランに対して一時停止措置を行ったことでした。

不法就労助長罪が施行されたのは平成2年(1990年)6月1日ですので、ちょうどイラン人が多く公園に集結していた時代はその前後にあたります。日本の雇用者には、不法残留・不法就労を助長することへの罪意識は、まだそれほど無かったでしょう。

ビザ免除制度を利用して「短期滞在」の在留期間を繰り返しながら不法就労を継続するという状況を打開するため、ビザ免除の運用を”一時停止”するという対策が、30年前に有効に機能したということになります。

まとめ

少子化と労働力不足に伴う入管政策の転換により、今後在留外国人は増加の一途を辿ることは間違いありません。在留外国人の母数が増えるということは、不法残留・不法就労や外国人犯罪の件数も増えることが想定されます。

加えて、予測できない海外情勢の変化、例えば大規模災害や紛争から、突発的な外国人の流入がいつ何時発生するとも限らないことも踏まえると、今後、入管政策としての国の舵取りは困難を極めると思います。

30年前に比べれば不法就労助長罪への認知度も格段に高まっていることから、もし外国人流入の突発的増加という事態になった場合に、単純にビザ免除の一時停止措置というカードが有効に機能するということでは無いのだろうと思います。

一方で、最近では、令和5年の入管法改正において、難民認定申請3回目以降の在留者については退去強制手続きの例外としない部分が、来月1日から施行されます。(現行では、短期滞在で入国し難民認定申請を行えば、「特定活動」という在留資格(同資格には様々な類型があるが、難民認定申請中という類型にあたる)が付与され、これを何度でも繰り返すことにより適法に在留を継続することができます。)

しかし、令和3年(出入国管理庁が発表している最新の実績)の難民認定の標準処理期間は32.2か月です。単純に2倍すると64,4か月で5年強となり、法改正後も5年は適法に在留することができる計算になるわけです。(→在留は適法だが不法就労の温床となる。)

昔は制度がザルだと思われていた(すなわち不法就労助長罪が無かった或いは周知されていなかった)が、今後、制度は充たされても、実態がザル(すなわち流入人口が多すぎて摘発が間に合わない)と思われるようなことにならないように願いたいものです。

まあ、諸外国に比べると、低賃金と円安で日本経済は魅力に劣るので、日本が不法就労のターゲットになることもしばらくは無いのかもしれませんが、それはそれで残念なことです。

在留・入管関連ニュース

投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です