近年、日本における外国人労働者数は過去最多を更新し続けている。一方で、それに伴い不法就労に関する摘発事例も増加しており、摘発を逃れるための手口も年々巧妙化している。特に、出前館における配達員アカウントの不正貸出問題はその象徴的な事例である。就労資格のない外国人が、日本人の名義を使って配達業務に従事し、その対価の一部を名義貸与者や仲介業者に支払っていた。このような不正就労の構図は氷山の一角に過ぎず、他の業種・分野でも似たような構造的問題が顕在化している。
1. シェアリングエコノミーにおける名義貸与型の不法就労
近年、ウーバーイーツや出前館、Airbnbなどのプラットフォームを利用した働き方が増加しているが、それに乗じて、在留資格のない外国人がこれらのサービスを通じて不法に労働するケースも報告されている。出前館の事例と同様、外国人が日本人のアカウントを借用し、顔写真なども加工・偽装して審査を通過するなどの手口が用いられている。
ウーバーイーツにおいても、過去にベトナム人技能実習生が不正にアカウントを借りて配達していた事件が報道された。このケースでは、SNS上で「アカウント貸します」などと募集され、数万円単位でアカウントが取引されていた。これにより実習先を離れた技能実習生や、留学ビザで在留しているが就労時間の上限を超えて働こうとする者が、比較的見つかりにくい業務に従事しているのである。
2. 留学生の「資格外活動」違反
留学生には原則として「週28時間以内」の就労が認められているが、実際にはこの規制を超えて働くケースが後を絶たない。例えば、コンビニや飲食業界などでは慢性的な人手不足を背景に、外国人留学生を積極的に雇用している。しかし、彼らが複数の職場を掛け持ちして規定時間を超えて働いたり、在留資格を取得後に学業を実質的に放棄して労働中心の生活に切り替える「偽装留学」のようなケースも報告されている。
このようなケースでは、雇用側が違法であることを認識しつつ黙認していたり、タイムカードを複数に分けるなどの方法で監督官庁の目を逃れようとする行為が見られる。また、一部の日本語学校がビザ取得を目的とした受け入れを行い、実態として教育機関の役割を果たしていない場合もある。
3. 技能実習制度を悪用した強制労働・不法就労
技能実習制度は、本来は開発途上国への技能移転を目的とした制度であるが、実態としては低賃金労働力の受け皿となっているとの批判が絶えない。特に、制度の枠を超えた職場への転職や、過酷な労働環境からの逃避の結果、失踪し不法滞在・不法就労に至るケースが後を絶たない。
2022年には、ベトナム人技能実習生が農業実習先を失踪し、その後建設現場で不法に働いていた事例が報道された。このケースでは、偽造の在留カードを用いて雇用されており、受け入れ先企業も身元確認を十分に行っていなかったことが明らかとなった。
また、技能実習生に対して賃金未払い・長時間労働・暴力などが横行していることから、制度そのものの在り方に疑問を持つ声が国内外から上がっている。
4. 偽造・改ざん書類による不正在留と就労
最近では、偽造在留カードや偽造就労資格証明書を使った就労も増えている。これらは一部の闇業者やブローカーが提供しており、インターネットやSNS上で簡単に入手できるようになっている。見た目も精巧で、一見して偽造とは分かりにくいため、雇用者が知らずに採用してしまうリスクも高い。
東京入国管理局の発表によれば、2023年には約1,800件の偽造在留カードが押収されており、その多くが就労を目的としたものであった。ブローカーは「合法的な就労が可能」と偽って外国人を勧誘し、不正就労を仲介することで利益を得ている。
5. 不正行為による在留資格の取得と悪用
もう一つの問題は、在留資格そのものを不正に取得し、その資格を悪用して働く事例である。たとえば、国際結婚を偽装して「日本人の配偶者等」の在留資格を取得するケースや、「経営・管理」ビザを取得して実態のない会社を設立し、自由な就労を可能にするケースがある。
このような資格は自由度が高く、就労に制限がないため、取得後にまったく別の職業に就いていたとしても、形式上は不法就労にあたらない。そのため、形式的なチェックでは見抜きにくく、摘発が難航している。
まとめと今後の課題
以上のように、不法就労はその形態を多様化・複雑化させており、名義貸与、偽装結婚、偽造書類の使用など、摘発を逃れるための手段は巧妙になっている。出前館の事例はその一端に過ぎず、こうした不法就労を放置すれば、日本の法制度や雇用市場に大きな歪みをもたらす恐れがある。
今後は、雇用主側の責任を厳しく問う法整備の強化や、在留資格の審査体制の見直し、プラットフォーム企業による本人確認体制の厳格化が求められる。また、外国人労働者が適法かつ安心して働ける環境整備と、人権の保護も同時に進める必要がある。
日本社会が国際化する中で、外国人労働力に依存する構造は今後も続くと見られる。不法就労問題に対応するには、摘発と防止の両輪を回すと同時に、「制度の穴」を埋める不断の見直しが求められる。企業、行政、市民社会が連携し、透明性の高い雇用体制を築くことが急務である。