日本に在留する外国人はここ数年で急増しており、法務省の統計によると、2023年末時点で在留外国人数は約330万人に達した。特に技能実習生や特定技能制度の導入、留学生、国際結婚による移住など、多様な背景を持つ外国人が日本各地で暮らしている。このような背景から、日本語教育の必要性はますます高まっている。
とりわけ、外国籍の子どもたちは、義務教育制度に組み込まれながらも言語的なハンディキャップを抱えており、学習や生活面で困難に直面するケースが多い。夜間中学では、日本語教育の必要性が高まっており、文部科学省は日本語指導を充実させる方向で検討を始めている。だが、夜間中学は限られた地域・規模での運営にとどまっており、在留外国人全体を支えるには不十分である。
官民の日本語教育アプローチとその実績
【1. 官の取組:制度整備と支援体制】
政府は、日本語教育を国家として支える体制を構築しつつある。2019年には「日本語教育の推進に関する法律」が制定され、国や自治体が日本語教育の提供責任を担う姿勢が明文化された。これにより、以下のような施策が進められている。
- 各自治体での「日本語教育推進計画」の策定
- 教育現場での「日本語指導が必要な児童生徒」の把握と指導体制の整備
- 外国人住民向け「日本語教室」や「多文化共生センター」等の設置
- 夜間中学や定時制高校での支援拡充
文部科学省や文化庁は、外国人児童・生徒の受け入れ体制整備に補助金を交付し、教員研修や教材開発、日本語指導の人的支援を行ってきた。特に「JSL(Japanese as a Second Language)」指導の強化は、学校現場での実績として評価されている。
一方で、これらは主に都市部や外国人集住地域に集中しており、地方では支援が行き届いていないケースも多い。
【2. 民間の取組:ボランティアとNPOの役割】
日本語教育の実務においては、民間団体、NPO、地域のボランティアが果たす役割も大きい。地域の国際交流協会や日本語ボランティア団体は、以下のような活動を展開している。
- 地域住民向け日本語教室(週1回〜数回の対面またはオンライン)
- 学校に通えない子どもや大人向けの補習教室
- 外国人労働者向けの生活日本語講座
- 多言語対応の生活相談窓口との連携
これらは現場のニーズに即した柔軟な対応が可能であり、特定の制度に依存しないスピーディな支援が実現している。ただし、多くの活動はボランティアベースで運営されており、財政的・人的な継続性が課題である。
課題と展望
【1. 教育資源の地域格差】
日本語教育の機会は、東京、愛知、大阪など外国人が多く住む都市部では比較的整備が進んでいるが、地方では十分とはいえない。特に、農業・介護・建設分野などで外国人が進出している地域では、日本語教育のインフラが追いついておらず、「孤立」や「労働災害」などのリスクが高まっている。
【2. 教師の専門性と人材不足】
日本語教育を担う教師の専門性確保も喫緊の課題である。現行では「日本語教師」は国家資格ではなく、民間の養成講座を修了した者が多いが、その質や水準にはばらつきがある。政府は今後、日本語教師の国家資格化を目指しているが、導入と運用には時間と制度設計の検討が必要である。
【3. 子どもへの包括的支援の不足】
外国にルーツを持つ子どもたちは、言語面だけでなく、文化的・心理的適応においても支援を要する。だが、学校現場では「日本語ができない子ども=学力が低い」という誤解が根強く、適切な評価や指導が困難となっている。バイリンガル支援員や母語支援の拡充、教員研修の制度化が望まれる。
【4. 日本社会の受容性】
言語教育は単なる技術提供ではなく、「社会参加」や「文化理解」へとつながるものである。だが、日本語教育の提供側・受け手側双方において、日本語の「習得=日本への同化」と捉える傾向が根強く、真の多文化共生には至っていない。言語多様性の価値を認めた社会的合意の形成も必要である。
おわりに:今後の日本語教育の在り方
日本は今後、少子高齢化と人口減少に直面するなかで、外国人を受け入れることは避けられない現実である。日本語教育は、外国人が社会の一員として共に生きるための基礎であり、それは単に言葉の習得にとどまらず、教育、福祉、労働、文化の多様性と交差する複合的な課題でもある。
官による制度整備と資源投入、民による現場密着型の柔軟な支援、それぞれの強みを活かしながら、相互補完的に展開する必要がある。国・自治体・教育機関・NPO・企業・地域住民が連携し、「誰一人取り残さない」日本語教育体制の構築が急務である。