本投稿は、外国籍の人が日本で遺言書を作成する際に気をつけるべきこと③ の続きです。
1. アメリカ国籍の人
特徴:
アメリカは州ごとに相続法が異なるため、統一された「アメリカ法」は存在しません。遺言の有効性や相続制度は居住していた州の法律に基づきます。
注意点:
- 準拠法の選択が極めて重要:どの州の法を適用するのか明確にしておく必要あり。
- 遺留分制度が州によって異なる:多くの州では配偶者保護の仕組みがあるが、日本のような厳格な遺留分はない。
- 多言語遺言に配慮:日本語と英語の併記が推奨され、州によっては翻訳が必須。
- 国外財産との分離管理が必要:アメリカ国内の不動産や口座については、別個に遺言書を作成する場合もある。
推奨対応:
- 日本法を選択する場合は、明確に遺言に記載。
- 公正証書遺言を日本語で作成し、必要に応じて英語訳を添付。
- アメリカにある資産には、その州の法律に基づく遺言書を別に作成。
2. 中国国籍の人
特徴:
中国民法典では遺言制度が整備されており、日本と似た遺留分制度(法定相続権の保障)も存在しています。日本との制度的な整合性が比較的取りやすい国です。
注意点:
- 遺留分に配慮が必要:日本法と中国法ともに遺留分制度があるため、両国に相続人がいるとトラブルの原因となることも。
- 遺言形式に差異がある:中国ではビデオ遺言や口述遺言も一定条件下で認められるが、日本では無効。
- 中国語で書かれた遺言の日本での有効性:翻訳と公証が必要。
推奨対応:
- 日本での資産に関しては日本の形式(公正証書遺言など)で作成。
- 中国語遺言との整合性に注意。可能なら一つの遺言で包括的に対応せず、国別に遺言書を分ける。
- 相続人間の調整が必要な場合は、生前から説明や同意を得ておく。
3. フィリピン国籍の人
特徴:
フィリピン民法では、遺留分制度が非常に強力に保障されています。遺言によって自由に全財産を処分することが困難で、子や配偶者の取り分が厳格に定められています。
注意点:
- 遺留分の侵害に非常に敏感:たとえ日本で作成した遺言であっても、フィリピン国内の資産や相続人に適用する際、争われる可能性が高い。
- 英語またはフィリピノ語の遺言が主流:日本語の遺言を使う場合は、必ず正確な翻訳が必要。
- 宗教や家族制度の影響も大きい:親族間の繋がりが強いため、遺言と感情的な対立が起きやすい。
推奨対応:
- フィリピン本国の法律に基づき、遺留分を尊重した遺言作成が望ましい。
- 日本の財産については日本法に基づき、公正証書遺言で明確に記載。
- 遺留分を侵害する可能性がある場合は、相続人と事前に話し合いの場を設ける。
補足:複数国籍・永住者の場合の注意点
複数国籍を持っている人や、日本に永住して長期間生活している人は、法の適用がさらに複雑になります。
特に注意すべき点:
- 二重国籍の場合:原則として「実質的にどの国と結びつきが強いか」により、本国法が判断される。
- 永住権者:日本での生活基盤が強いため、日本法を相続の準拠法に選択することが合理的とされるケースも多い。