外国籍の方から遺言についての相談を受けることがあります。日本で生活する外国籍の人が、自身の財産をめぐるトラブルを避けるために遺言書を作成することは重要です。しかし、国際的な要素が絡む場合、単に日本法に従って作成すればよいとは限りません。遺言の効力や適用される法律、形式、相続人の権利など、慎重に検討すべき点がいくつもあります。以下に、外国籍者が日本で遺言書を作成する際に注意すべき主なポイントを解説します。


1. 準拠法(どの国の法律が適用されるか)

外国籍者にとって最も重要なのは、遺言や相続にどの国の法律が適用されるのか(準拠法)を明確にすることです。日本の国際私法(法の適用に関する通則法)によれば、相続に関しては原則として「被相続人の本国法」(第36条)が適用されます。つまり、外国人が亡くなった場合、その人の国籍国の相続法が適用されるのが基本です。

ただし、法の適用に関する通則法第37条では、「被相続人が相続開始の時において常居所地を有した地の法」を準拠法として選択することが可能です。つまり、日本に長く住んでいた外国人であれば、日本法を相続に適用するという選択もできます。

→ 注意点:

  • 自分の本国法(例えばアメリカ法、中国法など)の相続制度を理解しておくこと。
  • 日本法を選択する場合は、その意思を遺言書などで明示すること。
  • 二重国籍を持つ人や国籍と居住地が異なる人は、どの法が適用されるか専門家と相談すべきです。

2. 遺言書の形式

日本には主に以下の3つの遺言方式があります:

  1. 自筆証書遺言:本人が全文・日付・氏名を自筆し、押印する方式(法務局で保管可能)。
  2. 公正証書遺言:公証人の立会いのもとで作成する方式(証人2人が必要)。
  3. 秘密証書遺言:内容を秘密にしておくが、公証人に提出して存在だけを証明してもらう方式(あまり利用されていない)。

外国籍者が日本で遺言書を作成する場合、日本の方式に則って作成すれば、日本国内での効力は問題なく認められます。

→ 注意点:

  • 自筆証書遺言の場合、誤字・脱字・不明確な表現が原因で無効になるおそれがある。
  • 公正証書遺言は信頼性が高く、遺言内容を確実に実現したい場合に適している。
  • 母国の言語で作成する場合は、翻訳と併せて公証手続きが必要になる可能性がある。

3. 遺留分制度への対応

日本には「遺留分」と呼ばれる制度があり、法定相続人(例えば子、配偶者など)には、最低限の相続分が保証されています。遺留分を侵害した遺言は、その部分について無効となることがあります。

一方で、遺留分制度の有無やその内容は国によって異なります。例えばアメリカでは州によって制度が異なり、英国では遺留分制度が存在しないため、自由な遺言が可能です。

→ 注意点:

  • 自国法に遺留分制度があるかどうかを確認する。
  • 日本法を準拠法として選択する場合は、日本の遺留分制度に注意。
  • 相続トラブルを避けるため、相続人への説明や調整が重要。

4. 財産の所在地と相続の実行

外国籍者が所有する財産が複数国にまたがっている場合、財産のある国の法律や手続きにも従う必要があります。たとえば、日本に不動産があり、アメリカにも預金口座があるようなケースです。

→ 注意点:

  • 各国の財産について、それぞれの法制度で遺言が有効か確認する。
  • 複数国に遺言書を作成する場合、内容に矛盾が生じないように調整する。
  • 相続手続に必要な書類(翻訳、公証、アポスティーユなど)を準備しておく。

5. 言語と翻訳

遺言書が日本語以外の言語で作成された場合、日本国内での相続手続きにおいては、正確な翻訳が必要になります。また、公正証書遺言を外国語で作成することは、原則としてできません。

→ 注意点:

  • 日本での相続を前提にするなら、遺言は日本語で作成するのが無難。
  • 外国語の遺言書を使用する場合、専門家による正確な翻訳を用意する。
  • 多言語併記の遺言書を作成する際は、どの言語が正本か明示する。

6. 専門家の活用

国際的な相続・遺言問題は複雑であり、専門知識なしには対応が難しいことが多くあります。弁護士、司法書士、行政書士、公証人などの専門家を活用することが望ましいです。

→ 注意点:

  • 国際相続に詳しい専門家を選ぶこと。
  • 遺言作成前に、自国の法律と日本の法律の両方を比較検討する。
  • 税務(相続税)についても事前に確認しておくとよい。

結論

外国籍の人が日本で遺言書を作成する際には、単に日本のルールに従うだけでなく、自分の国籍や居住地、財産の所在、自国法との関係など、多岐にわたる要素を考慮する必要があります。準拠法の選択や遺言の形式、遺留分制度、財産分配の方法についてしっかり理解し、将来的なトラブルを未然に防ぐためにも、可能な限り専門家と相談しながら進めることが重要です。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。