本投稿は、外国籍の人が日本で遺言書を作成する際に気をつけるべきこと① の続きです。
【参考文献】
- 法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号) – 特に第36条(相続の準拠法)および第37条(準拠法の選択)を参照。
- 民法(明治29年法律第89号) – 第960条~第1020条あたり(遺言の方式、効力、遺留分等)。
- 法務省:遺言・相続の制度についての公式情報 https://www.moj.go.jp/
- 日本公証人連合会「遺言制度について」 https://www.koshonin.gr.jp/
- 「国際相続の実務と理論」鳥山恵 編著(新日本法規出版) – 国際相続の典型事例や準拠法の考え方を丁寧に解説。
- 「国際私法入門」近藤真司 著(有斐閣) – 外国人に関する準拠法選択の仕組みや背景を学ぶのに適した書籍。
【具体的な事例】
事例1:アメリカ国籍のAさんが日本で不動産を所有していた場合
Aさんはアメリカ国籍で、日本に20年以上在住。日本に住宅用の不動産と預金があり、アメリカには株式資産がある。日本での生活が長く、日本に居住を継続していたため、遺言書作成時に「日本法を相続の準拠法とする」旨を明示した。
対応策:
- 日本語で公正証書遺言を作成。
- 日本の不動産については遺言に明記し、相続人に通知。
- アメリカの資産については、アメリカ法に基づいた別の遺言を作成(日本の遺言とは内容を矛盾させないよう調整)。
→ 結果、日本での相続はスムーズに処理され、アメリカでも資産引継ぎが適切に実施された。
事例2:中国籍のBさんが遺言書を自筆で作成したが無効とされたケース
Bさんは中国籍で、日本に在住していたが、自筆証書遺言を書いた際に日付が記載されていなかった。死後、家族が遺言書を発見したが、形式不備により裁判所で無効とされた。
対応策:
- 遺言書作成時に、日本の方式要件(全文自筆、日付、署名、押印)を遵守していなかったことが原因。
- 遺言を法的に有効とするために、公正証書遺言の活用が推奨されていたが実行されなかった。
→ 結果、相続人間で財産分与をめぐるトラブルが発生し、家庭裁判所での調停に発展した。
事例3:英国籍のCさんが遺留分をめぐってトラブルを回避した例
Cさんは英国籍で、日本に居住していた。日本法では遺留分制度があるが、英国法にはこの制度がない。Cさんは自身の死後、配偶者だけに財産を相続させたいと考え、日本法を準拠法に選択しなかった。結果として、英国法に基づいた自由な相続が認められ、遺言が有効とされた。
対応策:
- 自身の本国法を適用することを明示。
- 日本語・英語併記の遺言書を作成し、翻訳とともに適切に保管。
→ 結果、日本にある財産の相続手続きでも有効な意思として認められた。