Why Every Workplace Needs to Document Its Immigration Policy Now (2025/7/14 SHRM)の記事は職場における移民方針を文書化することの重要性を述べていますが、外国人労働者が増加の一途をたどる我が国においても参考とすべき点があります。
※SHRM (The Society for Human Resource Management)は、世界165カ国以上で31万人の人事プロフェッショナル会員が参加する世界最大の人事プロフェッショナルの為の組織です。
1. 移民方針を文書化する重要性:SHRMの視点
SHRMは、文書による移民(就労)ポリシーの整備をHRに強く推奨しています。主な理由は以下の通りです。
- コンプライアンスのため:I‑9フォーム(米国での雇用適格性確認)などに基づき、従業員の在留資格・就労資格を適切に確認することが不可欠。書面があると監査対応や法令解釈が容易になります。
- 公平性・透明性のため:すべての外国人労働者に対して標準化された手続きを保証することで、説明責任と公正感が高まります 。
- リスク回避・対応力強化のため:移民規制の変化や不意の査察(ICEなど)に対して迅速かつ体系的に対応する土台となります。
2. 日本社会への示唆と参考点
(1) 手続き・コンプライアンスの明文化
- 資格確認の手順化:在留カードや就労資格証明などをHRが定期点検・記録するルールを構築。SHRMが強調するI‑9対応に相当。
- 更新・再確認スケジュール:書面での期限管理。SHRMが提案する「電子申請」「自動更新」の仕組みを参考に、日本でもリマインド・電子化を導入すれば効率化が図れる。
(2) 平等で一貫した対応の担保
- 個別判断の排除:ケースごとに異なる対応になると、労働者から不信や不公平と見なされる危険性あり。SHRMの原則に沿い、定型手順とチェックリスト化で透明性を確保。
- 多文化対応のバックアップ:在留資格・国籍に関係なく、共通の理解と方針に基づいた採用・管理を徹底。AWSのように「所属者ファースト」の文化を育む基盤に。
(3) リスクマネジメントへの備え
- 監査対応フローの整備:SHRMが示すように、不意の査察に備えた対応プラン(責任者・資料・記録保持)を策定することで組織全体の安心感が向上。
- 執行機関との関係構築:SHRMがDHSへ提言しているように、日本の入管庁や労基署等とも「適正手続きへの連携」「相談窓口設置」で土台作りを行える 。
(4) 労働力確保・経済競争力への意義
- 多様な人材の活用:SHRMの調査では、外国人労働者が経済成長・グローバル競争力に貢献しているとする声が多く、日本でも同様の視点が重要 。
- 採用・教育計画の高度化:安定した在留管理下で人材育成・採用を進めることで、人手不足やスキルギャップの解消やイノベーションにつながる。
3. 実践的なステップ(日本での導入案)
以下は、SHRMの考えを基に日本の企業が取るべき具体策です:
Step 1:基盤整備
- 移民(在留)ポリシー文書の策定:目的、定義、適用範囲、担当部門を文書化。
- HR担当者向けガイドライン作成:在留資格チェック手順、更新管理、記録保持方法を体系化。
Step 2:運用・制度設計
- 定期チェック体制の確立:在留カードの有効期限をHR情報システムと連動し自動リマインド。
- マニュアルとチェックリストの運用:採用時・在籍中・更新時に必ず実施。
Step 3:教育・周知活動
- 従業員研修:外国人労働者と日本人上司・チームリーダー向けに雇用ルール・コンプライアンス教育。
- 相談窓口整備:在留資格や手続きに関する相談窓口を明示し、安心して報告・相談できる環境を構築。
Step 4:リスク対応策
- 監査想定ドリル実施:外部監査や入管調査を想定した内部模擬監査を定期的に実施。
- 緊急時対応フローの準備:資格不備や問題発覚時の即応フロー(誰が、何を、いつどこで)。
Step 5:改善・政策参与
- 定期レビューと改善:制度運用状況や法改正をふまえて文書も手続きもアップデート。
- 業界団体や自治体との連携:グループディスカッションや共同提言の場を通じ、地方や業界を超えた課題解決を推進(SHRMのA-Team方式に倣う)。
4. 日本における導入による効果
- 法令遵守とガバナンス強化:在留適正化法や出入国管理関連法の遵守が明確化され、監査・行政対応時のリスクが低減。
- 外国人労働者の定着と生産性向上:安心して働ける環境構築が定着率と生産性を高め、「人材の質」が向上。
- 経営安定と成長戦略の加速:入管法改正・技能実習の見直しが進む状況下で、安定した採用基盤が企業の競争力につながる。
5. おわりに
日本では外国人労働者数が増加の一途をたどっており、在留資格・移民政策への対応が急務です。SHRMが主張するように「文書化された移民ポリシー」は、単なる行政手続きの効率化に留まらず、企業にとってはコンプライアンスの基盤であり、組織文化や経営戦略にも大きな影響を及ぼします。
これを受けて、企業は
- 手続きの定型化と明記化
- 教育・支援体制の整備
- 緊急時の対応策の準備
- 常に更新される制度設計
という循環的な運用プロセスを構築すべきです。
こうした取り組みが、技術立国としての日本の労働市場における国際競争力強化と、グローバル人材の潜在力を最大限に引き出す鍵となるでしょう。