はじめに

2025-07-09 The Guardiangの記事(難民申請者に英国で働く権利を与えるべき )はイギリスにおける難民申請中の就労について論じています。

日本においては、難民として認定されるまでの過程に一定の時間を要することが多く、その間の生活手段として「就労」を希望する外国人も少なくありません。しかし、日本の入管制度においては、難民申請中の外国人に対する就労について厳格な条件が定められており、必ずしもすべての申請者が自由に働けるわけではありません。以下、就労が認められるケースと認められないケースを分けて、それぞれ詳細に解説します。


1.原則:就労は認められない

まず原則として、難民認定申請中の外国人に対しては、当初、就労は認められていません。入管法上、就労を行うには「就労が可能な在留資格」が必要であり、難民申請を行った時点で在留資格が切れた、あるいは在留資格が「短期滞在」である者などは、そもそも就労を伴う在留資格を持っていないことが多いためです。


2.例外的に就労が認められるケース

① 在留資格を保持している者が難民申請を行った場合

たとえば、「技術・人文知識・国際業務」「留学」「家族滞在」などの在留資格を有する外国人が、在留中に難民申請を行った場合、当該在留資格が有効である限り、その在留資格の範囲内での活動(=就労や就学など)を継続することが可能です。

ただし、その在留資格が満了する前に在留期間の更新または在留資格変更が必要となります。入管庁が更新や変更を認めた場合は、引き続き活動を継続できますが、認められなければ在留資格を失い、原則として退去対象となります。

② 「特定活動(就労可)」の許可が与えられた場合

難民申請をした時点で在留資格が切れている、または在留資格の更新が認められなかった場合でも、法務大臣が裁量により、「特定活動(就労可)」の在留資格を与える場合があります。

この「特定活動」による就労許可には以下のような条件があります。


3.就労が許可される条件と期間

(1)申請から6か月経過しても処分(認定・不認定)が出ていない場合

法務省のガイドラインにより、難民認定申請をしてから6か月が経過しても審査結果が出ない場合、申請者が希望すれば「特定活動(就労可)」への変更が一定の条件の下で認められることがあります。

この制度は、2010年より運用されており、「無収入で生活困窮に陥ることを避ける」人道的な措置として導入されました。

(2)許可されるための要件(主に以下のいずれにも該当することが求められます)

  • 正式な難民申請をしていること(偽装や不備がないこと)
  • 申請から6か月以上が経過しても、処分が出ていないこと
  • 退去強制令書の発付を受けていないこと
  • 公共の秩序や善良な風俗に反する行為をしていないこと
  • 本人が就労を希望しており、就労先が明らかであるか、就労の意志が具体的であること
  • 偽名や虚偽申告など、不正行為が過去にないこと

(3)許可される在留資格と活動内容

  • 在留資格:「特定活動(就労可)」
  • 在留期間:原則として 6か月ごとの更新制
  • 就労内容:職種に制限はないが、風俗営業・反社会的業種などは禁止されている
  • 就労時間:フルタイム可(週40時間以内が基本)

4.就労が認められないケース

以下のような場合は、難民申請中であっても就労は認められません。

① 不法残留・不法入国の状態での申請

在留資格を一切持たないまま(例:ビザなし入国、不法残留状態などで)難民申請を行った場合は、原則として「仮放免」の措置となり、在留資格は与えられません。仮放免中は、就労活動は一切禁止されています。

② 明らかに偽装申請と判断される場合

過去に複数回、短期間のうちに難民申請を繰り返している場合や、就労目的で難民申請を乱用していると判断されるケースでは、たとえ6か月が経過していても「特定活動(就労可)」は不許可となります。

③ 退去強制令書を発付されている者

すでに退去強制処分を受けている場合、在留資格の取得は一切認められず、仮放免中であっても就労はできません。


5.制度上の課題と今後の動向

■ 偽装申請の増加と審査の厳格化

近年、日本では難民認定の申請数が増加しており、特に技能実習や留学生として来日後に、帰国を避けるための手段として難民申請を利用する例が報告されています。これにより、難民申請中の就労制度を悪用するケースも増えており、入管当局は審査を厳格化する方針を強めています。

■ 2023年の入管法改正

2023年に成立した入管法改正により、「難民申請中であっても、3回以上不認定となった者は再申請中であっても退去強制の対象とする」規定が導入されました。これにより、就労許可の判断もさらに慎重になっており、1回目の申請者でかつ審査中の者に限定して「特定活動(就労可)」が認められる傾向が強まっています。


6.まとめ

難民認定申請中の外国人に対する就労許可は、原則禁止ながらも、人道的配慮と制度の透明性を踏まえ、一定の条件の下で認められています。ただし、制度の乱用を防止するため、厳格な審査と限定的な適用がなされており、すべての申請者に認められるものではありません。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。