技能実習制度における失踪問題は、長年議論されてきた。
劣悪な労働環境、仲介ブローカーによる搾取、低賃金。
確かに、それらは重要な要因である。
しかし、実務の現場にいると、もう一つの理由が見えてくる。
それは――
「母国に帰っても仕事がない」という現実である。
この視点を抜きにして失踪問題を語ることはできない。
1.制度は「日本国内」だけで完結している
日本の外国人労働政策は、基本的に国内制度として設計されている。
・入国
・在留資格
・雇用
・更新
・転職
・帰国
制度の視野は、ほぼすべて日本国内に限定されている。
しかし、外国人労働者にとって人生は、日本国内だけで完結するものではない。
彼らには母国があり、家族があり、帰国後の人生がある。
にもかかわらず、日本の制度は
「帰国後」についてほとんど何も設計していない。
これは大きな構造的欠陥である。
2.「帰国後の仕事」が見えない制度
技能実習制度はもともと
「技術移転」
を目的としていた。
しかし実際には、日本の労働力不足を補う制度として運用されてきた。
その結果、
帰国後にその技能を活かす環境があるかどうかは、ほとんど検討されてこなかった。
例えば
・母国に同じ産業があるのか
・日本で得た技能を活かせる企業があるのか
・帰国後の就職支援はあるのか
こうした点は制度の中心には置かれていない。
帰国後の生活が見えないままでは、
外国人労働者にとって日本で働くことは
「帰れない旅」
になってしまう。
3.失踪は「犯罪」ではなく「構造」である
失踪という言葉は、しばしば
「規律違反」
「ルール違反」
として語られる。
しかし、多くの場合、それは単なる個人の問題ではない。
もし
・帰国後に仕事がない
・母国の賃金が極端に低い
・借金を抱えて来日している
という状況に置かれていれば、
日本に残ろうとする心理は自然なものである。
つまり、失踪とは
個人のモラルの問題ではなく、制度設計の問題
なのである。
4.育成就労制度の限界
2027年からは技能実習制度に代わり
育成就労制度
が導入される予定である。(育成就労制度の概要(令和7年12月改訂))
制度の名称も目的も変わる。
しかし、重要な問いが残る。
それは
帰国後をどう考えるのか
という問題である。
もし制度が日本国内だけで完結しているならば、
失踪の構造は大きく変わらない可能性がある。
労働移動の柔軟化だけでは、問題の核心には届かない。
5.均衡共生モデルの視点
均衡共生モデルは、外国人労働政策を
二国間の労働市場
として捉える。
つまり
日本の労働市場
+
送り出し国の労働市場
この両方を視野に入れて制度を設計する必要がある。
例えば
・帰国後の就職支援
・日系企業との雇用連携
・技能認証制度
・二国間人材循環
こうした仕組みが整えば、
外国人労働は
「一方向の労働移動」ではなく
「人材循環」
へと変わる。
6.共生とは「帰る場所」を守ることである
共生という言葉は、しばしば
日本社会の中での共存
として語られる。
しかし、本当の共生とは
帰る場所を奪わないこと
でもある。
外国人労働者が
母国に戻り、
誇りを持って働き、
再び世界を行き来できる社会。
それこそが、
持続可能な国際社会の姿である。
均衡共生モデルが目指すのは、
そのような
人材の循環する世界
なのである。