TSKさんいん中央テレビの記事「深刻な人手不足に悩む農家に“即戦力” 地域の農繁期の「ずれ」に着目 外国人材をリレー式に雇用」をはじめとする資料を元に、「産地間リレー形式(地域をまたいで繁閑期のずれを利用して技能・特定技能外国人を連続雇用するモデル)」の実例、およびこの方式が外国人労働者と雇用側双方にもたらすメリットを整理して述べます。
実例
記事等に出てくる実際の取組み内容を要約すると、以下のようなケースが紹介されています。
- モデル概要
農作業の「繁忙期」が地域・産地・作物によって異なることを利用し、ある地域での農繁期終了後に他の地域で繁忙期を迎える産地へ外国人労働者をそのまま “リレー” 的に移動させて雇用する方式です。これにより、ある産地での繁閑期の波に翻弄されることなく、年間を通じて仕事を確保できるようにするものです。 FNNプライムオンライン+2TRNグループ関連サイト一覧+2 - 具体的な例:店舗流通ネットが長野県→長崎県→再び長野県へと外国人特定技能者を紹介するプログラム
この記事の例では、ベトナム人の特定技能外国人就農者を対象として、まず長野県の農家で春~秋の繁忙期に働いてもらい、その長野の閑散期となる11月からは長崎県の産地で再び繁忙期の農作業へ従事できるように支援。さらに次シーズンにはまた長野県へ戻る(Uターン)体制も含めた支援プログラムです。 TRNグループ関連サイト一覧 - 支援体制や運営の仕組み
- 登録支援機関や人材紹介会社が関与し、移動の手配、住居確保、言語サポートなどを含む支援を行う。 YOLO JAPAN+1
- 農家側は、繁忙期・閑散期のスケジュールをあらかじめ産地同士で調整し、「この時期は長野、この時期は長崎」というように受け入れ先を切り替える体制を築く。 TRNグループ関連サイト一覧
- 雇用契約や条件も、移動を前提としたものにしたり、複数の地点で働くことを視野に入れたものにしたりして、労働者が安心できるように配慮されている例がある。 TRNグループ関連サイト一覧+1
メリット:外国人労働者側・雇用側双方にとって
このリレー方式を採ることには、外国人就労者側と雇用側それぞれに複数のメリットがあります。以下に整理します。
外国人労働者側のメリット
- 年間を通じて安定した就労機会・収入が得られる
畑作・果樹・野菜等の繁閑期が異なる地域をまたぐことで、ある産地の閑散期に仕事がなくなってしまう期間を短縮できる。作付け・収穫などでの仕事が切れることなく、移動先で次の農作業を続けられることで収入の安定性が向上する。 YOLO JAPAN+1 - 経験・技能の多様性が増す
季節・地域・作物が変わることで、多様な農作業(野菜・施設園芸・果樹など)を経験でき、技能が高まる。これにより、将来のキャリアパスや雇用条件交渉力も向上する可能性がある。 YOLO JAPAN+1 - 移動支援・生活サポートが比較的手厚いモデルがある
登録支援機関や受け入れ先が住居提供、交通手段、言語対応などの支援を整えている例があり、移動のコスト・手間・不安を軽減できる。 YOLO JAPAN+1 - 予見可能性・安心感の向上
移動先や次の就労先があらかじめ確保されているモデルでは、「閑散期だから次どうなるか分からない」という不安が減る。契約期間や労働条件も複数の産地で働くことを想定したものになっているケースでは、生活設計を立てやすい。 TRNグループ関連サイト一覧
雇用側(農家・産地・地域)のメリット
- 人手不足の緩和・効率的な労働力確保
農業分野は繁忙期・閑散期の波が明確で、人手が不足する時期が集中する。産地間リレー方式を取ることで、閑散期の産地にいる人を繁忙期の別地域で使う、という効率的配置が可能になる。これにより過不足の発生が抑えられ、仕事が滞ることを減らせる。 FNNプライムオンライン+1 - 技能・経験の蓄積による即戦力化
同じ人が複数産地で働くことで、地域特有の作物・慣行にも対応できるようになり、受け入れ側にとっては育成コストが抑えられ、また作業の質も安定しやすくなる。 YOLO JAPAN+1 - 生産計画の安定性
繁忙期だけでなく通年に近い形で人手を確保できるため、収穫・出荷・処理などのスケジュールを立てやすくなる。農家・農業法人は作付け量や出荷先との調整を無駄な余裕を持たせることなく計画でき、生産性向上につながる。 農業技能測定試験+1 - 農業経営の地域間格差の緩和
高賃金・好条件を提供できる産地だけが先に人を確保してしまうと、小規模・条件が厳しい産地が人手不足に苦しむ。産地間リレー方式では、条件の違いや繁閑期のずれを活かし、比較的条件が厳しい地域でも仕事が回る仕組みを構築できる。これが地域間の雇用格差の是正につながる。 TRNグループ関連サイト一覧 - コストの分散・リスク低減
通年で人を確保しなければならないわけではなく、移動などの費用はかかるものの、過剰な休業手当や労働力不足による損失を回避できる。農家が一産地でのみ人を確保して閑散期を抱えるよりも、産地をまたぐ仕組みを持つことで調整可能性が広がる。 TRNグループ関連サイト一覧
注意すべき点・課題
ただし、このリレー方式にはメリットだけでなく、いくつか注意点や課題もあります。これらを無視すると制度が定着せず、トラブルの原因ともなります。
- 移動・交通・住居など物理的・心理的負荷
雇用者が別地域に移動することによる交通費や引越し費用、住居環境の変化などの負担がある。これをサポートする仕組みが必要。 - 労働条件や賃金の地域差・産地差への配慮
地域によって賃金水準や生活のコストが異なるため、移動の際に不公平感やトラブルにならないよう、契約条件をあらかじめ明示し、整えておくこと。 - 法制度・在留資格の手続き負担
特定技能の取得要件、在留期間、登録支援機関や監理団体との契約など、制度的な手続きが必要。複数の地域で働く場合、その都度届け出や雇用契約調整が必要なケースもある。 - 生活支援・コミュニケーション・言語・文化の違いのフォロー
異なる地域での生活になるため、生活インフラ(住居、交通)、言語や文化対応、医療や行政サービスなどのサポートが受け入れ先ごとに整っていることが望ましい。 - 労働者の意向・健康管理など
移動や仕事の内容変更が多いと、疲労・体調の維持が課題になる。また、地域によって気候や作物が異なるため、慣れない作業での安全面にも配慮が必要。
総論:このモデルの意義
「産地間リレー形式」は、農業分野における人手不足・業務の繁閑の波・地域間の農繁期の時間差という構造的な課題を、柔軟に活用して解決を図るモデルであると言えます。特に人口減少・高齢化の進む地方農業では、常時人員を維持することが難しいため、こうしたリレー方式は、中小の農家でも外国人材を受け入れやすくし、人材資源を共有することで全体の生産力を底上げする可能性があります。
また、特定技能制度が「即戦力」「在留期間の一定の長さ」「派遣も可能な雇用形態」などの制度的特徴を備えているため、このようなリレー形式との相性が比較的良い、ということができるでしょう。