「日本は外国人労働者に選んでもらえなくなる」中国人女性が不法就労“助長”で退去強制 「無過失・不起訴」のはずが…裁判所は「処分妥当」なぜ? (2025-09-15 弁護士JPニュース)も言及する、不法就労助長罪における過失の要否と判断基準について解説します。
1. 法律上の位置づけ
不法就労助長罪(入管法第73条の2)は、事業主などが外国人に不法就労をさせた場合に処罰を科すものです。
この罪の大きな特徴は、「知らなかった」と主張しても処罰を免れない点です。条文には次のような規定があります。
- 知らなかったことは免責事由とならない
- ただし、「過失がない場合」に限り免責される
つまり、故意に限らず「過失」がある場合も処罰対象となり、過失がないことを雇用主側が示せれば免責され得ます。
2. 「過失なし」と認められる典型例
雇用主が十分な注意義務を尽くしたと認められる場合です。
- 在留カードを必ず提示させ、ICチップ読み取りなどで真偽確認を行った。
- 在留資格の種類や活動範囲を確認し、資格外活動許可の有無もチェックした。
- 留学生や家族滞在者については労働時間の上限(週28時間)を超えないようシフト管理した。
- 不明点があれば入管や専門家に相談し、記録を残していた。
3. 「過失あり」とされる典型例
逆に、注意を怠ったと評価される場合です。
- 在留カードそのものを提示させずに雇用した。
- 有効期限切れのカードや、粗悪な偽造カードを確認せず受け入れた。
- 留学生をフルタイムで働かせるなど、資格外活動を放置した。
- 「おかしい」と感じる事情があったのに、調査を怠った。
4. 事件例にみる判断傾向
- コンビニ雇用例:カード確認を怠り、不法就労者を雇用 → 過失ありとして処罰。
- 偽造カード例:精巧な偽造カードを見抜けず、IC読み取りもできなかった → 過失なしとして不起訴。
- ben54.jp報道のケース:本人確認をマスク越しで済ませるなど不十分 → 過失ありとして退去強制妥当と判断。
5. 実務上のチェックリスト
事業主が「過失なし」と認められる可能性を高めるための基本チェックリストは以下の通りです。
在留カードを必ず提示させる
在留カード読取アプリ等でICチップを読み取り、真偽確認を行う
在留資格の種類・在留期限・就労制限の有無を確認する
留学生や家族滞在者の場合、資格外活動許可証の有無をチェックする
労働時間(特に週28時間制限)の遵守をシフト管理で徹底する
疑問点は入管または専門家に確認し、その回答を記録しておく
採用時だけでなく、定期的に有効期限や資格内容を再確認する
6. まとめ
不法就労助長罪は「知らなかった」では済まされず、過失がある限り処罰の対象となります。
ただし、雇用主が合理的な確認義務を尽くしており、過失なしと立証できる場合は処罰を免れることができます。
したがって実務上は、採用時や雇用継続中において 「チェックリストに沿った確認を確実に行い、記録を残すこと」 が最善のリスク回避策となります。