外国人による不動産取得「規制すべきだ」77・2% 支持政党問わず規制派が多数 (2025-07-29 産経新聞)にもあるように、外国人による土地取得に対する規制の是非は、多くの国で議論の的となっており、国家の安全保障や経済的利益、地域社会への影響といった多角的な観点から政策が展開されています。以下では、海外の先進国における規制の実態やその背景、影響について概観し、最終的に日本が参考とすべき点を提示します。
1. アメリカ合衆国の事例:国家安全保障と農地保全の観点から
アメリカでは、外国人による土地取得は原則として自由ですが、一定の条件下では規制があります。特に注目すべきは、**外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)**に基づき、外国人による戦略的施設(軍事施設、重要インフラ、通信施設など)周辺の土地取得に対して審査が義務付けられている点です。
2023年には、中国企業によるモンタナ州の空軍基地近郊の農地購入計画が問題視され、連邦政府および州政府が介入する事態となりました。また、テキサス州やフロリダ州などでは、特定国(中国、ロシア、イラン、北朝鮮など)による土地取得を州法で制限する動きが強まり、国内世論と連動した安全保障的規制が進んでいます。
2. カナダの事例:住宅価格高騰への対応
カナダでは近年、外国人投資家による住宅用地の購入が不動産価格の高騰を招いているとされ、2023年1月に**外国人による住宅購入禁止法(Prohibition on the Purchase of Residential Property by Non-Canadians Act)**が施行されました。この法律により、2年間、外国人(市民権や永住権を有しない者)は原則として住宅の購入が禁止されました。
この施策は、都市部における若年層や中間所得層の住宅取得を支援する狙いがありますが、経済界からは「投資マインドを損なう」との批判も根強く、今後の政策動向に注目が集まっています。
3. オーストラリアの事例:不動産市場の安定化と透明性の確保
オーストラリアでは、外国投資審査委員会(FIRB)が外国人による土地・不動産取得の可否を審査する制度を運用しています。特に住宅不動産については、外国人は新築物件の購入は原則許可されるが、中古住宅の購入は原則禁止という厳格な規制が設けられています。
また、農地の取得についても2015年以降、取得額が一定額(現在は15百万豪ドル)を超える場合にはFIRBの承認が必要とされ、農地台帳への登録も義務化されています。これは、海外資本による農地買収が国内の食料安全保障を脅かすとの懸念が背景にあります。
4. ニュージーランドの事例:自国民の利益保護を最優先
ニュージーランドは2018年、「海外投資改正法」を制定し、外国人による住宅用不動産の購入を原則禁止しました。これは、急激な地価高騰と住宅供給の逼迫によって、国民の住宅取得が困難になったことが直接の契機です。
同国政府は、「自国民が暮らす家は自国民が所有すべき」という理念を掲げ、土地と不動産を経済資源というよりは生活基盤として重視しています。ただし、ホテル建設や農村開発などの公益性の高いプロジェクトについては、例外的に承認される場合もあります。
5. ドイツの事例:開かれた市場とEU原則の両立
ドイツでは、原則として外国人による土地取得に対する法的制限はなく、EU域内の自由な資本移動の原則が貫かれています。ただし、国家安全保障上の観点から、近年では中華系資本によるインフラ関連の土地取得について連邦政府が調査・干渉するケースが増えています。特に港湾施設やエネルギー施設の売却に対しては、透明性や相互主義の観点からの精査が行われています。
6. フランスの事例:農地への外国人投資規制強化
フランスは伝統的に農業を重視する国であり、農地の保全と地域社会の維持を目的に、外国人による農地取得に対して一定の規制を設けています。
特に2021年には、農地取得に関する事前承認制度が導入され、特定の農地取引については地域農業委員会の承認が必要となりました。背景には、中国系企業による大規模農地の買収案件が相次いだことがあります。フランス政府は、外資による農業支配が農村社会の安定を損なうことを警戒しています。
各国の動向から読み取れる共通点と教訓
各国の事例から読み取れるのは、外国人による土地取得に対する姿勢は、経済的自由と国家的利益とのバランスをどのようにとるかにかかっているという点です。安全保障、住宅問題、農業・食料自給、地方社会の存続など、多様な観点が絡み合っており、単なる「経済活動の自由」の枠に収まらない複雑な政策判断が求められます。
特に、安全保障の観点からは、軍事施設やインフラ周辺の土地取得に制限を設ける動きが共通して見られます。また、住宅市場の安定化という観点では、カナダやニュージーランドのように外国人の参入を制限することで、自国民の生活の質を守ろうとする姿勢が顕著です。
日本が参考にすべき点
日本でも、外国人による水源地や離島の土地取得が問題視され、2021年には重要土地調査規制法が成立しましたが、実効性や対象地域の限定性については今後の課題とされています。海外の事例に学ぶべき点としては、
- 明確な対象地域や用途の定義(軍事施設、農地、水源地など)
- 取得目的の透明化と事前審査制度の徹底
- 国民生活や住宅市場への配慮を踏まえた限定的規制
- 例外措置の明確化と投資意欲を損なわない制度設計
などが挙げられます。
結論
外国人による土地取得規制は、国家主権の確保と国際投資の促進という相反する命題の間でバランスを取るべき複雑な政策課題です。海外の先進国は、それぞれの国情に応じて柔軟かつ戦略的な制度設計を行っており、日本もそれらの事例を参考に、透明性と合理性を兼ね備えた制度の構築が求められます。