はじめに

日本における外国人の滞在管理は、在留資格とビザという2つの制度を分けて運用しています。簡単に言えば、「ビザ」は日本へ入国するための許可であり、外務省(大使館・領事館)が発行し、入国時の審査に用いられます。一方、「在留資格」は日本国内での滞在目的や活動内容を規定し、法務省(入国管理局)が管理・許可します。この二段階の管理は、入国の段階と滞在の段階で異なる機能を果たし、きめ細かな在留管理を可能にしています。

この仕組みは、日本特有のものではなく、多くの先進国でも類似の考え方が採用されていますが、その運用方法や強調点には国ごとに違いもあります。以下では、日本の制度の特徴を踏まえつつ、代表的な先進国における類似事例と相違点を紹介し、在留管理の目的をどのように実現しているかを考察します。


日本の在留資格とビザの分離管理の特徴

日本では、ビザはあくまで「入国許可証」であり、これを持っていても在留資格が認められなければ実際の滞在は認められません。逆に、在留資格を得た外国人が、一旦日本を出国して再入国する場合は、ビザなしでも再入国できることもあり(再入国許可制度)、両者は機能的に異なっています。

この制度の利点は、入国時点の審査と滞在期間中の審査を分けることで、在留中の外国人の活動状況を法務省が適時に監視・管理できることです。また、在留資格は非常に細かく種類が分かれており、学業、就労、家族滞在など目的に応じて許可され、滞在の内容を限定できます。


海外先進国における同様の事例

1. アメリカ合衆国

アメリカでも日本同様、ビザ(Visa)と滞在資格(Status)は異なる概念です。米国ビザは外務省相当の米国大使館・領事館が発行し、入国時の許可証として機能します。しかし、入国後の滞在資格(たとえば、学生ビザF-1、就労ビザH-1Bなど)は米国市民権・移民局(USCIS)が管理します。

アメリカの場合、ビザは入国時に必要ですが、実際の滞在は入国審査官(CBP)が許可する「I-94」という記録によって決まります。このI-94の記載内容が在留期間や滞在目的を示し、後のステータス管理に繋がります。したがって、日本の在留資格とビザの分離に近い制度です。

ただしアメリカでは、滞在資格の変更や延長申請は入国管理局(USCIS)に対して行い、ビザの発給は大使館が担当するため、2つの機関が別々に管理している点も類似しています。

2. イギリス

イギリスも、入国許可(ビザ)と国内での滞在許可(Leave to Enter / Leave to Remain)を区別しています。イギリスのビザは外務省傘下の査証センターが発給し、入国審査官が最終判断を下します。入国後は内務省(Home Office)が在留許可を管理します。

イギリスの特徴は、入国時に与えられるLeave to Enterがビザに相当し、滞在資格を含むことが多い点です。しかし、入国後にビザの延長や変更はHome Officeが担当します。つまり、ビザ発給と滞在許可は連動しており、厳密に分けられてはいないものの、実質的には入国許可と滞在許可が異なるプロセスとして管理されています。

3. カナダ

カナダでは、ビザはカナダ移民・難民・市民権省(IRCC)が発給し、入国許可を意味します。入国後の滞在資格(Temporary Resident StatusやPermanent Resident Status)も同じ省庁が一元管理しており、ビザと在留資格の境界はやや曖昧です。

ただし、カナダもビザを持っていても入国審査で最終的に滞在資格が認められなければ入国できない仕組みであり、入国許可=滞在資格ではない点は日本に似ています。入国審査時に滞在期間や条件が決められ、その後の延長申請も同じ機関が担当します。


異なる事例

ドイツ・欧州シェンゲン圏

ドイツや他のシェンゲン加盟国では、「ビザ」と「在留資格」を明確に分ける制度はありますが、日本のように細かい在留資格区分までは設けていません。シェンゲンビザは短期滞在(最大90日)用であり、それ以上の長期滞在や就労は別途許可(在留許可)を現地の外国人局(Ausländerbehörde)が発行します。

しかしシェンゲン圏ではビザはあくまで短期滞在のための許可であり、長期滞在は各国の国内法で別途管理されるため、シンプルに「入国許可」と「滞在許可」が切り離されています。日本のように在留資格の種類が細分化されていないため、滞在中の活動制限が比較的緩やかである点で異なります。

オーストラリア

オーストラリアではビザ(Visa)が入国から滞在までを一括して管理する仕組みです。つまり、ビザ取得時に滞在目的・期間・条件が決まり、入国時に別途在留資格が設定されるわけではありません。

オーストラリア政府はビザ制度を通じて入国許可と滞在許可の両方を管理し、ビザの種類ごとに活動の範囲を明確化しています。したがって、日本のようにビザと在留資格を機能的に分けて管理する方式とは異なります。


比較と考察

日本を含む多くの先進国は、入国のためのビザ(査証)と国内での滞在許可(在留資格)を分けて管理しています。これにより、入国時に外国人の目的や状況を審査し、入国後も継続的に滞在状況を監視・管理することが可能です。特にアメリカやイギリスは、日本と似た二段階管理方式を採用しており、外務省(相当機関)がビザを発給し、法務省(または同等の機関)が滞在資格を管理します。

一方で、オーストラリアのようにビザが入国許可と滞在許可を一括管理する国もあります。これにはシステムの簡素化というメリットがありますが、入国後の柔軟な対応が難しい面もあります。欧州シェンゲン圏では短期滞在ビザと長期滞在許可を明確に分けることで、国ごとの管理とEU全体の共通ルールのバランスを取っています。

総じて、ビザと在留資格を分けて管理する方式は、入国の許可と滞在中の目的や条件をきめ細かく監視・調整できるため、多くの先進国で採用されています。ただし、その詳細な運用方法や制度設計は国の移民政策や法体系、歴史的背景により異なるため、一概に日本の制度が模範的とも、また他国の方式が優れているとも言い切れません。今後も国際的な人の移動の変化に対応して、各国の制度も柔軟に変化していくことが予想されます。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。