近年、少子高齢化はアジア全体で深刻な社会課題となっている。かつて高齢化といえば先進国に特有の現象であったが、近年は経済成長と医療水準の向上により、東アジアを中心に多くの国が急速な高齢化に直面している。中でも日本は最も早く、かつ深刻な少子高齢化を経験している国であるが、韓国や台湾もまた、同様の状況に突き進んでいる。(介護現場に不可欠な外国人材、本当のライバルは海外…外国人1割時代 介護の現場で<下> 2025-06-15 読売新聞)
韓国・台湾における少子高齢化の現状
韓国は出生率の低さにおいて、世界最下位を記録しており、2023年時点で合計特殊出生率は0.7を下回っている。これは人口の自然減少が急速に進むことを意味しており、将来的には高齢者の割合が急増することが予想されている。また台湾も、出生率は1.0を切っており、急激な人口の高齢化と減少に直面している。これらの国々では、高齢者のケアを担う労働力の確保が重要課題となっており、日本と同様に外国人介護人材への依存が強まっている。
介護人材受け入れ競争の始まり
こうした背景のもと、東南アジア諸国、特にインドネシア、フィリピン、ベトナムなどからの介護人材の受け入れが注目されている。これらの国々は人口ボーナス期にあり、若年層が多く、また出稼ぎ文化が根強いという点で、介護人材供給国として期待されている。実際、これまでに多くの人材が韓国、日本、台湾に向けて送り出されてきたが、今後はこれらの国々による「受け入れ競争」が激化すると考えられる。
日本の魅力的な点と課題
日本が魅力的とされる点:
- 高い生活水準と治安の良さ:日本は生活インフラが整っており、治安が良く、外国人労働者にとって安心して暮らせる国である。
- 技能実習・特定技能制度の整備:外国人介護人材の受け入れにあたり、制度的な枠組みが整っている。特に特定技能制度は長期的な就労が可能で、在留資格の面でも安定性がある。
- 日本語学習環境の充実:日本語教育の支援制度や、研修制度が一定程度整っており、学習意欲のある人材には比較的受け入れられやすい。
- 経験と実績の蓄積:EPA(経済連携協定)による受け入れなど、十数年にわたる介護人材受け入れの経験があり、受け入れ先としての実績と信頼がある。
魅力的でない点(課題):
- 言語の壁と文化的障壁:日本語の習得は非常に困難であり、介護業務では高い日本語能力が要求される。また、日本の職場文化(上下関係、空気を読む文化など)に馴染むのが難しい場合がある。
- 賃金水準の相対的低さ:日本国内の介護職の賃金は全体的に低く、特に韓国や台湾が賃金水準を引き上げている中で、日本は競争力を失いつつある。
- キャリアパスの不透明性:日本で長期的に働く外国人介護人材にとって、将来的なキャリア形成の見通しが不透明である。昇進や永住の道が明確でない場合、モチベーションの維持が難しい。
- 社会的受容性の問題:地域によっては外国人介護人材への偏見や差別が根強く、安心して暮らす環境が整っていない。
韓国・台湾との比較
韓国や台湾も日本同様に制度整備を進めているが、特に韓国は外国人介護人材に対する賃金水準の向上や労働環境の改善に積極的である。また、ベトナム語やインドネシア語に対応したマニュアル整備など、外国人にとって働きやすい環境づくりを意識的に行っている。一方、台湾は伝統的に家族介護の文化が強かったが、近年は介護施設の整備を進めるとともに、外国人家事労働者の活用により柔軟な対応を行っている。
日本がとるべき施策
日本が東南アジア諸国からの介護人材を安定的に受け入れ、他国との競争に勝ち抜くためには、以下のような施策が必要である。
① 賃金と待遇の改善
介護職全体の賃金水準を引き上げることは、外国人だけでなく日本人の介護職離れを食い止める意味でも極めて重要である。特に外国人介護人材に対しては、技能や経験に応じた昇給制度の明確化、ボーナス制度の導入など、モチベーションを高める施策が求められる。
② 長期的なキャリア形成支援
特定技能から永住、そして管理職への道を明確に示すことが必要である。また、介護福祉士資格の取得支援や日本語能力向上支援を国家的にサポートすることで、長期定着が可能になる。
③ 生活支援と地域社会との共生
言語面のサポートだけでなく、住宅、医療、子育て、教育などの生活全般にわたる支援体制を整備する必要がある。また、地域社会と外国人介護人材との交流を促進するイベントやプログラムを通じて、相互理解を深める取り組みも重要である。
④ 多言語・ICTの活用
日本語の壁を低くするために、多言語に対応した介護マニュアルや、ICT技術(翻訳アプリ、介護記録の自動化)などの導入が急務である。これにより、業務効率を上げると同時に外国人にとっての心理的負担も軽減される。
⑤ 国際連携と戦略的パートナーシップの構築
送り出し国との間で、介護人材育成を目的とした職業訓練機関の設置、日本語教育の支援、帰国後のキャリア支援などを含む包括的なパートナーシップを構築することで、持続可能な人材供給体制を築くべきである。
結論
日本、韓国、台湾はいずれも急速な少子高齢化に直面しており、東南アジアからの介護人材の獲得競争が激化している。日本は生活環境や制度面では一定の魅力を持つ一方で、賃金水準の低さや言語的障壁、キャリア形成の不透明性などの課題を抱えている。これらの課題を克服し、より魅力的な受け入れ国となるためには、制度の抜本的見直しと、外国人が「暮らし、働き、成長できる社会」を実現することが急務である。国際的な信頼と持続的な連携を軸に、日本は未来志向の介護人材政策を構築していくべきである。