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トルコビザ免除停止を否定する岩屋外相に「不法滞在ゼロをやる気がない」維新・柳ケ瀬氏 (2025-06-13 産経新聞)の記事を以下に要約します。

参院外交防衛委員会で、埼玉県川口市に集住するトルコ系少数民族クルド人の難民申請問題を巡り、自民党の河野太郎氏らが求めるトルコ国籍者への短期ビザ免除の停止について、岩屋毅外相は改めて否定した。これに対し、日本維新の会の柳ケ瀬裕文氏は、不法滞在者ゼロプランに反するとして厳しく批判。観光目的で入国し難民申請・就労する「スキーム」の初手を断つため、ビザ免除の停止が有効と主張した。

柳ケ瀬氏は、1990年代にイランへのビザ免除を停止した例を引き合いに、効果を訴えた。また、法務省と外務省の連携不足や実効性の欠如も問題視し、「自民党は選挙前だけ不法滞在対策を訴えているが、実際にやる気がないのでは」と批判した。

さらに柳ケ瀬氏は、日本は事実上の移民政策を採っており、在留外国人がこの10年で1.7倍に増加したことから、社会保障や治安などに影響が出ていると警鐘を鳴らした。米国の事例を挙げ、移民政策はどの国でも分断や摩擦を生むと述べ、「一度立ち止まり、総量規制を検討すべき」と主張した。

ビザ免除停止措置の日本における実例とその背景

ビザ免除措置は、国際的な信頼関係に基づき、短期的な観光や商用の目的で訪日する外国人に対して、事前のビザ取得を不要とする制度です。訪日観光客の増加を促進し、人的交流や経済効果を生む重要な施策である一方で、不法滞在や偽装難民申請といった問題が顕在化した場合には、対象国の見直しや停止措置が取られることがあります。

日本におけるビザ免除停止の実例:イラン国籍者への対応

1990年代から2000年代初頭にかけて、日本ではイラン国籍者による不法滞在が深刻な問題となっていました。当時、多くのイラン人が短期滞在のビザや査証免除措置(特別措置)を利用して入国し、その後、在留資格を超えた就労や、滞在期限を過ぎたままの不法滞在に至るケースが相次いだのです。

これを受けて日本政府は、イランに対して行っていたビザ発給の簡素化措置を見直し、審査を厳格化しました。特に、短期滞在ビザの発給に関しては、保証人や経済的背景の確認などを徹底し、在留状況の把握も強化されました。これにより、不法滞在者の新規流入は一定程度抑制される結果となりました。

このように、特定の国籍の渡航者による制度の悪用が目立った場合には、ビザ政策の見直しという強硬手段が取られることがありますが、その一方で、外交関係や人的交流への悪影響も指摘されています。


クルド人問題にビザ免除停止を適用する際の問題点

近年、日本ではトルコ国籍を持つクルド人による難民申請が急増しています。彼らの多くは、観光目的で日本に入国した後に難民申請を行い、その審査中は強制退去を免れ、合法的に長期間滞在することが可能となっています。このような状況に対し、制度の抜け穴として問題視する声が上がり、トルコに対するビザ免除の見直しを求める動きも一部で見られます。

しかし、ビザ免除の停止をクルド人問題に適用するには、以下のような問題点があります。

① 善良な渡航者への影響

トルコ国籍を有するクルド人が難民申請を行っている一方で、トルコ国民の大多数は観光やビジネスなど、正当な目的で訪日しています。ビザ免除を一律に停止してしまえば、こうした善良な渡航者にも不便が生じ、日本への旅行や交流に対する心理的・実務的な障壁が生まれます。

② 外交関係の悪化

ビザ免除は相互主義を基本としているため、日本側が一方的にトルコへのビザ免除措置を停止すれば、トルコ側からも日本人へのビザ義務化などの対抗措置が取られる可能性があります。これは日土間の外交関係に緊張をもたらすだけでなく、経済・人的交流にも悪影響を及ぼしかねません。

③ 人道的保護の問題

クルド人は、トルコ国内で政治的・民族的な差別や迫害を受けてきた歴史を持ちます。欧州では、こうした事情を考慮してクルド人の一部に難民認定を与えている国も存在しています。日本においても、一律に「制度の悪用」と断定してビザ免除を停止すれば、真に保護を必要とする人々の入国や申請機会までもが奪われるおそれがあります。


ビザ免除停止に代わる現実的な対応策

上記のような課題を踏まえると、ビザ免除措置の停止は最終手段として慎重に扱うべきであり、より持続可能で柔軟な対応策が求められます。以下では、特に実効性が高いとされる対策を紹介いたします。

① 日本版ESTAの導入

最も注目される代替策として、「日本版ESTA(電子渡航認証制度)」の導入が挙げられます。米国では、ビザ免除対象国の渡航者に対して、入国前にオンラインで申請を行わせ、審査を通過した者のみ入国を認める制度を設けています。これにより、渡航前の段階でリスクのある人物の入国を防止することが可能となります。

日本でもこれを導入することで、ビザ免除制度を維持しつつ、安全保障や制度悪用のリスクに柔軟に対応できる体制が整います。例えば、過去に複数回の難民申請を行っている者や、出入国履歴に問題のある人物を事前にスクリーニングし、入国の是非を判断することが可能となります。

② 難民審査制度の迅速化・厳格化

現在の日本の難民認定制度では、審査に非常に長い時間がかかるうえ、審査中の強制退去が停止される仕組みを利用して、長期間にわたる滞在が可能となっています。これを見直し、審査を迅速かつ的確に行う体制を整備することで、真正な難民と偽装申請者を早期に識別できるようにするべきです。

また、複数回の却下後も再申請が可能となっている現行制度に対し、一定の再申請制限や審査厳格化を導入することで、制度の濫用を抑制できます。

③ 入国審査体制の強化と情報共有

入国時における審査官の権限を拡充し、過去の滞在歴や難民申請歴をもとに、個別に審査を強化することも効果的です。加えて、トルコ政府や他国の移民当局と連携し、リスクのある渡航者情報の共有を行うことで、より高度な水際対策が可能となります。

④ 補完的保護制度の整備

日本では、難民条約の枠に厳密に基づいて難民認定を行っており、認定率は極めて低い水準にとどまっています。難民と認定されないまでも、戦争や政治的迫害などで帰国が困難な人々に対して、人道的な観点から一時的な在留を認める「補完的保護制度」の導入も検討すべきです。これにより、真正な人道上の必要性を持つ者と、経済目的での申請を明確に区別することが可能になります。


おわりに

ビザ免除制度の停止は、短期的には不法滞在や制度悪用の抑止に効果を示す可能性がある一方で、その副作用として外交関係の悪化や、真正な訪日者・難民への影響が大きいことを忘れてはなりません。特にクルド人問題に関しては、民族的・政治的背景を理解した上で、人道的かつ現実的なアプローチが必要とされます。

そのため、ビザ免除の一律停止ではなく、日本版ESTAの導入、難民審査制度の改善、水際対策の強化といった多層的かつ柔軟な代替策こそが、制度の信頼性を高めつつ、国際社会の中で日本が果たすべき責任を果たす道であるといえるでしょう。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。