1. 問い
なぜ制度は、理念どおりに機能しないのか。
法律は存在する。
基準もある。
制度設計も行われている。
それにもかかわらず、現実には、
- 不法就労
- 社会保険未加入
- 在留不安定
- 技能と無関係な業務従事
- 支援なき漂流
といった問題が繰り返される。
問題は、制度が存在しないことではない。
制度が実装されていないことである。
2. 制度と実装の断絶
制度は、多くの場合、「規範」として設計される。
- 適切に雇用されるべき
- 適切に支援されるべき
- 法令は遵守されるべき
しかし、これらは期待であって、実行ではない。
制度は、実際に運用され、接続され、確認されて初めて機能する。
つまり、
制度とは、条文ではなく、実装された状態を指す。
3. なぜ実装されないのか
実装が欠如する理由は、単純な怠慢ではない。
現在の外国人政策は、
- 入管行政
- 労働行政
- 社会保険
- 税
- 金融
- 教育
- 住宅
が分断されたまま存在している。
それぞれは部分的には合理的である。
しかし、相互に接続されていない。
この状態では、
- 問題は共有されず
- リスクは可視化されず
- 責任は分散される
結果として、
制度全体としての機能不全が生じる。
4. 「制度が守られる」という前提
多くの制度設計には、暗黙の前提がある。
それは、
制度は守られるはずだ
という前提である。
しかし現実には、
- 企業は人手不足圧力を受け
- 外国人は在留不安を抱え
- 行政は監督能力に限界を持つ
この状況では、
制度遵守そのものが不安定化する。
つまり、
制度は、守られることを前提に設計してはならない。
守られるよう実装されなければならない。
5. 実装なき制度の帰結
制度が実装されないとき、
最終的な負担は弱い立場に集中する。
例えば、
- 不適切雇用でも転職できない
- 支援義務違反でも在留更新に影響する
- 社会保険未加入でも本人が不利益を受ける
ここでは、
責任を負う主体と、
不利益を受ける主体が一致していない。
その結果、
制度は、不信と不幸を再生産する。
6. テクノロジーの役割
この断絶を埋めるためには、
単なる厳格化では不十分である。
必要なのは、
制度間を接続する仕組みである。
ここで重要になるのが、テクノロジーである。
- 在留資格
- 雇用契約
- 社会保険
- 納税
- 生活インフラ
これらを相互接続することで、
制度は初めて継続的に機能する。
7. 「監視」と「信頼」の違い
ここで注意すべき点がある。
制度接続は、監視社会化を意味しない。
均衡共生モデルが目指すのは、
人を監視する社会ではなく、
制度を機能させる社会である。
重要なのは、
- 違反者を探すことではなく
- 問題が深刻化する前に把握し
- 修復可能な段階で介入すること
である。
8. RegTechへの接続
この発想は、次章のRegTechへ接続される。
RegTechとは単なるデジタル化ではない。
それは、
制度を継続的に機能させるための実装技術である。
つまり、
- 説明可能性
- 一貫性
- 予測可能性
を、実際の運用レベルで維持するための基盤である。
9. 結論
制度は、存在するだけでは機能しない。
必要なのは、
制度が接続され、確認され、維持される構造である。
均衡共生モデルは、
制度を理念から実装へ移行させることを重視する。
なぜなら、
信頼とは、実装された制度から生まれるものだからである。
※本稿は、均衡共生モデルにおける目次を構成する章に位置付けています。