日本の全件収容主義に対する国外からの批判

日本の出入国在留管理制度は、特に退去強制命令を受けた外国人に対して、原則として「全件収容主義」を採ってきました。すなわち、退去命令を受けた外国人は、在留資格の有無を問わず、仮放免が認められるまで、長期間にわたって入管収容施設に拘束されるという制度です。この方針は長年にわたって国内外から批判されてきました。(入管の「原則収容主義」「無期限収容」に裁判官の判断は?「入管収容と入管法は国際法違反訴訟」6月17日判決、焦点を解説【“知られざる法廷”からの報告】
2025-06-08 TBS)

国際人権団体であるアムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチは、日本の入管制度が国際人権基準に反しており、「無期限収容」が事実上可能である点や、仮放免が入管当局の裁量に依存しており司法的な監視が欠如している点を問題視しています。例えば、2021年にスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管で死亡した事件を受け、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、「非人道的で劣悪な収容環境」への懸念を表明しました。

また、国連自由権規約委員会(CCPR)も日本政府に対し、収容の最終手段性(last resort)や期間の上限、司法審査の導入を求めてきました。日本の「全件収容主義」は、これら国際的な人権基準と整合していないと見なされています。


日本と類似の政策をとる国の実例

オーストラリア

オーストラリアも、かつては日本と同様に厳格な移民・難民政策を実施してきました。同国は2013年以降、「オフショア処理」政策として、ボートで到着した難民申請者をナウルやパプアニューギニアのマヌス島などの国外施設に移送し、そこで長期間収容する手法を取ってきました。

オーストラリア政府は国内の移民制度と国境管理の厳格性を維持する一方で、国際的な人権団体や国連から「人道的配慮を欠いている」との強い非難を受けてきました。医療放置や自殺未遂などの人権問題も多数報告されています。

ハンガリー

東欧のハンガリーも、厳格な入管政策をとる国として知られています。2015年の欧州難民危機以降、国境にフェンスを設置し、違法越境者を拘束・即時送還する政策を導入しました。難民申請者の収容施設はしばしば刑務所に類似する環境と批判され、欧州連合(EU)や欧州人権裁判所からも非難を受けています。

ハンガリーは、政治的なポピュリズムのもとで「ゼロ移民」政策を強調しており、入管収容を一種の「抑止政策」として活用している点で、日本と共通する側面があります。


対照的な政策をとる国の実例

ドイツ

ドイツは、日本と対照的に「収容は例外、自由が原則」という立場をとっています。2015年に100万人を超える難民・移民を受け入れた際にも、収容はあくまで短期間かつ最終手段とされました。ドイツの法律では、退去命令が出されても、移送の準備が整うまでの間、拘束ではなく「出頭義務付きの自由滞在」や定期的な報告義務などで管理されるケースが多くあります。

また、収容期間にも法的な上限が設けられており、長期収容は原則として違法とされます。司法の審査を経ないままの拘束は、基本権の侵害に当たるとされ、ドイツ連邦憲法裁判所でもたびたび問題とされています。

カナダ

カナダは比較的開かれた移民政策で知られており、収容に関しても寛容な方針を採っています。拘束された移民には、48時間以内に移民・難民審査官による審査を受ける権利があり、それ以降も定期的な審査が義務づけられています。また、子どもや家族世帯の収容は極力回避され、代替措置(保護観察、GPSによる行動管理、定期報告など)が積極的に用いられています。

国際移住機関(IOM)やカナダ移民・難民評議会(IRB)などの外部機関による監視体制も整っており、透明性が確保されています。


日本の政策転換への課題と展望

日本でも、全件収容主義に対する見直しの動きは存在します。2023年には、出入国管理及び難民認定法(入管法)の改正案が可決され、一定の場合において収容に代わる監理措置を導入することが盛り込まれました。ただし、この監理制度は依然として入管当局の広範な裁量に依存しており、司法的な監視は不十分との指摘もあります。

また、日本では収容期間に法的上限がないまま、1年以上にわたって拘束される事例も存在し、国際社会からの批判は根強く残っています。制度改革には、国際人権基準を反映した法制度の整備と、入管行政の透明性向上が求められます。


まとめ

日本の「全件収容主義」は、長年にわたり人権団体や国際機関から強い批判を受けてきました。これはオーストラリアやハンガリーなど、抑止的かつ排他的な移民政策を採る国々と共通点があります。一方、ドイツやカナダなどは「自由が原則、収容は例外」という考え方に立ち、移民・難民の人権を重視した制度運営を実現しています。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。