1. 問い
制度は、なぜ信頼されるのか。
多くの場合、その答えは倫理的に語られる。
すなわち、公正であること、人道的であること、善意に基づくこと。
しかし、制度への信頼は、善意から生まれるものではない。
それは、構造から生まれる。
問うべきは、「どのような価値を掲げているか」ではなく、
制度がどのように信頼を生み出す構造を持っているかである。
2. 信頼の定義
本モデルにおいて、信頼は次のように定義される。
信頼とは、個人が制度の判断を理解し、予測し、依拠できる状態である。
この定義は、3つの要素から構成される。
- 理解可能性(なぜその判断がなされたのかが分かる)
- 予測可能性(次に何が起こるかが見通せる)
- 一貫性(同様の事案が同様に扱われる)
信頼は、感情ではない。
信念でもない。
それは、制度設計によって生み出される構造的状態である。
3. 不信の発生メカニズム
不信は偶然に生まれるものではない。
それは、次の3つの構造的欠陥から生じる。
- 不透明性(判断理由が説明されない)
- 非一貫性(同様の事案で異なる結果が出る)
- 非予測可能性(将来の結果が見通せない)
これらは単なる不便ではない。
人々を不確実性の中に置く状態を生み出す。
不確実性が過度に高まるとき、
人々は制度に依拠することをやめ、回避し始める。
ここに制度の機能不全が始まる。
4. 信頼を構成する3要素
この不信を減少させるためには、制度は次の要素を備える必要がある。
透明性
判断の根拠やプロセスが理解できること
一貫性
同様の事案が同様に扱われること
予測可能性
一定の基準に基づき結果を見通せること
これらは独立した要素ではない。
- 透明性がなければ一貫性は検証できない
- 一貫性がなければ予測可能性は生まれない
- 予測可能性がなければ依拠は成立しない
これらが揃って初めて、信頼は成立する。
5. 入管政策への含意
現実の入管制度においては、これらの要素が十分に備わっているとは言い難い。
- 基準は不明確であり
- 判断理由は十分に示されず
- 結果にはばらつきがある
その結果、制度と個人の双方に不信が蓄積する。
信頼の回復に必要なのは、価値の強調ではない。
制度構造の再設計である。
6. 補論:透明性への反論
透明性や予測可能性は、不正利用を助長するのではないかという指摘がある。
しかし、不透明性は不正を防ぐものではない。
それを見えなくするだけである。
理解できない制度は、信頼されない。
たとえ善意に基づいていたとしてもである。
必要なのは、完全な公開ではない。
制御された範囲での説明可能性である。
7. 説明可能性というインフラへ
以上の3要素は、次の結論へと導く。
信頼は価値ではない。制度設計の帰結である。
持続的に信頼を生み出すためには、
制度は説明可能であり、一貫しており、予測可能でなければならない。
これを、本モデルでは次のように呼ぶ。
説明可能性というインフラ
※本稿は、均衡共生モデルにおける目次を構成する章に位置付けています。