はじめに

TORONTO STAR(2025/4/27)でも述べられているとおり、近年、世界各国の高等教育機関が財政的な困難に直面する中、国際的な学生市場への依存が強まっている。とりわけ留学生から得られる授業料収入は、大学財政を支える重要な柱となっている。こうした構造は、大学にとって短期的な財政安定をもたらす一方で、中長期的には様々なリスクや課題も孕んでいる。本稿では、他国の事例を通して教育機関が抱える問題を明らかにし、最後に日本の現状について検討する。


他国における留学生依存の実態と問題

アメリカ合衆国

アメリカは長年にわたり世界最大の留学生受け入れ国であり、特に州立大学においては財政難の解決策として留学生を積極的に受け入れてきた。州政府からの補助金が縮小するなか、州立大学は高い授業料を課すことができる留学生を収入源として位置づけ、定員の一部を彼らに割り当てるようになった。たとえば、カリフォルニア大学バークレー校やミシガン大学などは、非居住者である留学生の割合が顕著に高く、授業料収入の依存度も高まっている。

しかしこの戦略は、教育の公平性に関する批判を呼んでいる。米国内の低所得層の学生が入学の機会を失い、大学が教育機関というより「国際ビジネス化」しているとの懸念もある。また、トランプ政権期における移民政策の厳格化や、パンデミックによるビザ発給の停止などにより、留学生数が激減したことで、多くの大学が財政的打撃を受けた。これは留学生に過度に依存した結果、外部要因によるリスクへの脆弱性が顕在化した一例である。

オーストラリア

オーストラリアもまた、大学財政のかなりの部分を留学生からの授業料に依存している国である。シドニー大学、モナシュ大学などの主要大学では、収入の30〜40%以上を留学生が占めるとされる。オーストラリア政府も留学生産業を「輸出産業」として位置づけており、国家経済に寄与する存在として重視されてきた。

しかし、COVID-19の感染拡大により国境が閉鎖されると、留学生の新規受け入れがほぼ停止。これにより多くの大学が数億ドル単位の損失を出し、大規模なリストラや研究活動の縮小を余儀なくされた。特に依存度の高かった大学ほど被害は大きく、依存構造のリスクが浮き彫りとなった。

イギリス

イギリスもまた、EU離脱や政府補助金の削減などにより、留学生を重要な収入源として活用している。オックスフォード大学やインペリアル・カレッジなどの有名校を含め、多くの大学が留学生の獲得競争に注力してきた。特に中国人留学生に対する依存度が高く、一部の大学では全体の留学生の4割以上が中国からの学生である。

地政学的リスク、たとえば英中関係の悪化などが発生した場合、この依存構造は深刻な影響を及ぼしかねない。また、教育の質よりも「金払いの良い学生」の確保に重きが置かれることで、アカデミックな基準の低下や教育の商業化への懸念が強まっている。


日本における現状と課題

日本においても、大学が財政的に厳しい状況に置かれている中で、留学生は重要な収入源として位置づけられている。国公立大学では運営費交付金の削減が続き、私立大学も18歳人口の減少により定員割れが進行している。こうした背景から、文部科学省は「留学生30万人計画」(2008年開始)を打ち出し、大学側にも積極的な受け入れが奨励されてきた。

2022年度の時点で、日本における外国人留学生数は約23万人とされており、そのうち約半数が中国、次いでベトナム、ネパールからの学生が多い。日本語学校や専門学校を経て、大学・大学院に進学するケースが多く、大学側も留学生向けの学費免除制度や入試の特別枠を設けるなど、受け入れ体制を整備している。

しかし、日本でも他国と同様の問題が顕在化している。第一に、特定国に依存するリスクである。中国からの留学生が減少すれば、日本の大学にとっては大きな打撃となる。また、授業料目的で入学する学生が一定数存在しており、学力や日本語能力の不足、学業への不適応が問題となっている。さらに、留学生の一部が経済的に困窮し、不法就労や失踪などの社会問題につながるケースも報告されている。

大学にとっても、短期的な収入確保の手段として留学生を受け入れるあまり、教育の質や学生支援体制の整備が後回しにされているという批判がある。特に地方私立大学では、留学生に依存することで何とか経営を維持している例も少なくない。


今後の展望と提言

今後、日本を含めた各国の大学が直面する課題は、「留学生依存の構造」をどう見直し、持続可能な財政基盤を確立するかである。そのためには以下のような視点が必要である。

  1. 多様な国からの学生受け入れ:特定国に依存せず、国際的な学生構成の多様性を確保する。
  2. 教育の質と支援体制の強化:単なる「数の確保」ではなく、学術的水準やサポート体制の充実に投資すべきである。
  3. 国内学生支援とのバランス:財政的な理由で国内の学生が不利益を被らないよう、公平な資源配分が求められる。
  4. 大学経営の多角化:授業料収入以外にも、研究費の獲得、産学連携、寄付金の強化など、財源の多様化が必要である。

結論

留学生の受け入れは、大学にとって財政的な救済手段であると同時に、教育の国際化という観点からも意義深い。しかし、過度な依存は教育の質の低下や国際的な政治・経済の変動に対する脆弱性を招く。日本を含む各国の大学は、留学生受け入れを単なる経済的手段にとどめず、より長期的で持続可能な戦略として位置づけ直すことが求められている。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。