はじめに
近年、日本における在留外国人の数は急増しており、国籍・民族・文化の多様化が進んでいる。法務省の統計によれば、2024年時点での在留外国人数は約350万人を超え、その数は今後も増加傾向にあると見込まれている。このような状況下、外国人が日常生活を送るうえで、宗教が果たす役割は極めて重要であり、精神的な支えとなると同時に、生活習慣や価値観、倫理観に深く関わっている。しかし、KYODO NEWS 2025/4/25 でも言及されているように、日本社会において宗教は個人の内面にとどまりがちで、公共空間における宗教の存在が目立つことは少ない。このような文化的差異が、在留外国人と日本社会との間に摩擦や誤解を生じさせる要因となっている。
本稿では、宗教が在留外国人にとってどのような意味を持ち、それに対応するために現在の日本社会における課題と施策について論じていく。
宗教の生活への関与:外国人と日本人の違い
まず、宗教が生活に占める位置の違いについて確認しておきたい。多くの外国人にとって、宗教はアイデンティティの中核であり、日常の食事・衣服・礼拝・冠婚葬祭など、あらゆる面において宗教的規範に従って生活していることが多い。たとえば、イスラム教徒であれば豚肉やアルコールの摂取を避ける必要があり、ラマダン期間中には日の出から日没までの断食を行う。キリスト教徒にとっては日曜日の礼拝やクリスマスなどの宗教行事が重要であり、ヒンドゥー教徒や仏教徒にもそれぞれ独自の信仰生活がある。
一方で、日本人の多くは宗教に対して比較的曖昧な態度を取る傾向があり、生活の中に宗教が強く根付いているとは言い難い。初詣やお盆などの宗教的儀礼は行うものの、それを信仰として捉えている人は少なく、むしろ習慣や文化として受け入れている側面が強い。このような宗教観の違いは、外国人が日本で生活するうえで孤立感や疎外感を覚える原因となり得る。
現時点における課題
以上のような背景を踏まえ、日本社会には以下のような課題が存在すると考えられる。
1. 公共空間における宗教的配慮の欠如
多くの公共施設や職場、学校では、祈祷室やハラール食の提供など、宗教的ニーズに対応する体制が不十分である。たとえば、ムスリムの礼拝のためのスペースがない、特定の宗教の祝祭日が休暇として認められないといった点が挙げられる。これは、外国人が日常生活で宗教を実践する上での大きな障壁となっている。
2. 宗教への無理解・偏見
宗教に対する無理解からくる偏見や差別も深刻な問題である。例えば、スカーフやターバンを着用していることで不審の目を向けられたり、宗教的な理由から食事や服装を制限しているにもかかわらず、それが尊重されない場面も報告されている。このような状況は、多文化共生を掲げる社会において大きな課題である。
3. 教育現場での対応不足
学校教育においては、生徒の宗教的背景に応じた配慮がなされていないケースが多い。例えば、体育の授業で肌の露出が多い服装を強制される、給食で宗教的に禁止されている食品が出されるなど、本人や保護者にとっては看過できない問題となっている。また、宗教に関する教育自体もほとんど行われておらず、異文化理解の促進に向けた取り組みが不足している。
今後の施策と提案
こうした課題を踏まえ、以下のような施策が求められる。
1. 宗教的多様性へのインフラ整備
まず、公共施設や企業、教育機関において宗教的配慮を反映したインフラの整備が必要である。たとえば、祈祷室や多目的室の設置、ハラールやベジタリアン食の提供、宗教行事に対応した柔軟な勤務・通学制度の導入などが挙げられる。これにより、外国人が信仰を守りながら安心して生活することが可能となる。
2. 宗教教育と啓発活動の強化
宗教に関する正しい知識を提供し、偏見や誤解を解消するための教育と啓発活動が不可欠である。学校では、世界の主要な宗教や宗教と文化の関係について学ぶ機会を設けるべきであり、職場や地域社会でも異文化理解を促進する研修やセミナーの実施が望まれる。
3. 外国人支援団体との連携強化
宗教的な問題に直面した外国人を支援するため、地方自治体とNPO・宗教団体との連携を強化することが重要である。多言語対応の相談窓口を設けたり、宗教行事の開催支援を行ったりすることで、外国人との信頼関係を構築し、共生社会の実現に近づくことができる。
4. 宗教的配慮を盛り込んだ法整備
最後に、宗教的配慮を制度的に保障するための法整備も求められる。現行の制度では、宗教的自由は憲法で保障されているものの、実生活における具体的な配慮が義務化されているわけではない。今後は、たとえば「多文化共生基本法」などを整備し、宗教的・文化的多様性を保護する枠組みを構築することが望ましい。
おわりに
在留外国人にとって宗教は単なる信仰の対象にとどまらず、生活のあらゆる面に深く関わる重要な要素である。しかし、日本社会においてはその重要性が十分に認識されておらず、制度や文化のギャップが依然として存在している。今後、日本が真の多文化共生社会を目指すのであれば、宗教的配慮を積極的に取り入れた政策の推進が不可欠である。宗教の違いを理解し、尊重し合える社会を築くことこそが、多様性を力とする社会への第一歩である。