地方病院で外国人向け外来を開設、「中小病院こそ在留外国人医療を」と語るワケ(日経メディカル:2025/04/16) にも述べられていますが、日本における在留外国人向けの医療体制は、近年の国際化と多様化に伴い、一定の改善が見られるものの、依然として言語の壁や文化的な違いなど、解決すべき課題も多く存在します。本稿では、在留外国人が日本の医療機関を利用する際の現状と課題、そしてそれに対する取り組みについて、最新の調査結果を交えながら詳述します。
1. 在留外国人の医療利用状況と抱える課題
株式会社YOLO JAPANが実施した2020年のアンケート調査によると、在留外国人の約60%が日本の医療機関を利用する際に不安を感じており、その主な理由として「言葉が通じない」「医療機関の利用方法が分からない」などが挙げられています。
言語の壁とコミュニケーションの難しさ
調査に参加した在留外国人の約33%が、受付や医師とのコミュニケーションにおいて言葉の壁を感じており、約30%が自分の症状を適切に伝えられないと回答しています。これらの問題は、特に日本語が堪能でない外国人にとって、医療サービスの利用に大きな障壁となっています。
医療機関の利用方法に対する不安
また、病院の仕組みや受診科の選択に関する不安も多く、約29%が予約や支払い方法が分からないと回答し、約23%がどの科を受診すればよいか分からないと感じています。これらの不安は、特に日本に来たばかりの外国人や医療制度に不慣れな人々にとって、受診のハードルを高くしています。
2. 医療機関の対応と多言語支援の現状
厚生労働省の調査によると、言語サポートを実施している医療機関も存在しますが、その普及率は依然として低いのが現状です。具体的には、医療通訳者が配置されている医療機関は約21%、電話通訳が利用可能な医療機関は約8%、外国人対応ができるタブレット・スマートフォンが配置された医療機関は約12%となっています。これらの数字は、外国人患者のニーズに対する対応が十分でないことを示しています。
3. 在留外国人の医療費支払い状況
一方で、医療費の支払いに関しては、在留外国人の約9割が未払いの経験がないと回答しており、医療機関側の懸念とは裏腹に、外国人患者の支払い意識は高いことが分かります。ただし、医療費の未払いが発生した場合、その回収には時間や手間がかかることから、医療機関側の負担となる可能性があります。
4. 宗教や医療文化・習慣の違いによるトラブルの可能性
在留外国人の増加に伴い、宗教や医療文化・習慣の違いによるトラブルの可能性も指摘されています。例えば、食事制限や服薬の習慣、治療方法に対する考え方の違いなどが、医療現場での誤解や摩擦を生む原因となり得ます。これらの課題に対応するため、医療機関には多文化理解や柔軟な対応が求められています。医学書院
5. 政府や自治体の取り組み
政府や自治体では、外国人患者の受け入れ体制の整備を進めています。例えば、厚生労働省は『外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル』を策定し、多様な宗教や医療文化・習慣を持つ外国人患者を円滑に受け入れるためのポイントを紹介しています。また、自治体によっては、多言語対応の医療情報提供や通訳サービスの導入など、地域特性に応じた取り組みが進められています。
6. 民間企業の支援活動
民間企業による支援活動も活発化しています。例えば、株式会社YOLO JAPANは、外国人向けの多言語型問診票作成サービス「YOLOメディカル」を提供し、外国人患者が自身の症状や身体の異変を的確に伝えることをサポートしています。このようなサービスは、医療機関と患者双方の負担軽減に寄与しています。
7. 今後の課題と展望
今後、在留外国人の増加に伴い、医療機関にはさらなる対応が求められます。具体的には、医療従事者の多文化理解の促進や、外国語対応の強化、医療制度や保険制度に関する情報提供の充実などが挙げられます。また、外国人患者のニーズに応じた柔軟な対応ができる体制の構築が、医療の質の向上と患者満足度の向上につながると考えられます。
8. 結論
日本における在留外国人向けの医療体制は、一定の改善が見られるものの、依然として言語や文化の違い、情報の不足など、解決すべき課題が多く存在しています。特に、言語の壁や医療制度への理解不足は、外国人が適切な医療を受ける上で大きな障害となっており、これに対する支援体制の整備が急務です。
一方で、政府、自治体、民間企業による多言語対応や文化的配慮のある医療支援策も徐々に進展しており、こうした取り組みは、外国人患者が安心して医療を受けられる環境づくりに向けて前向きな一歩となっています。
将来的には、医療機関の多文化共生能力の向上、デジタルツールを活用した多言語医療サービスの普及、医療者教育における文化的感受性の涵養などが重要な課題となるでしょう。また、外国人自身にも日本の医療制度や受診方法に関する基本的な情報を伝えることで、医療アクセスの円滑化が図られることが期待されます。
在留外国人が増加の一途をたどる日本において、国籍や言語、宗教に関わらず、すべての人が平等に適切な医療を受けられる社会の実現は、これからの医療政策における重要なテーマです。今後も、医療現場・行政・市民社会が一体となって、多文化共生社会にふさわしい医療体制の確立に取り組んでいく必要があります。