外国人在留手続き、手数料上げ 資格変更4000→6000円(日本経済新聞 2025/01/31) が在留手続の各手数料が引き上げられることを報じています。ところで、諸申請のうち、「在留資格認定証明書交付申請」については手数料が定められていません。これは何故でしょう?

1.在留資格認定証明書とは

在留資格認定証明書(以下「認定証明書」)は、日本への入国を希望する外国人が、その在留資格に適合することを事前に証明するための書類です。これを取得することで、査証(ビザ)の申請が円滑に進むメリットがあります。

通常、行政手続きには手数料が発生することが一般的ですが、日本ではこの認定証明書の交付申請に手数料がかかりません。本稿では、その理由を探るとともに、他国の類似制度と比較しながら、日本の制度の特徴について考察します。

2. 在留資格認定証明書の制度と手数料が無い理由

(1) 制度の概要

認定証明書は、外国人の入国管理を円滑化するために出入国在留管理庁が発行する証明書です。この証明書を取得することで、日本国外の在外公館でビザ申請を行う際に審査が迅速に進む利点があります。

(2) 手数料が発生しない理由

認定証明書の交付申請に手数料がかからない理由として、以下のような点が挙げられます。

1. 制度の公共性と国益

認定証明書の目的は、適法な外国人の入国を促進し、日本社会や経済に貢献する人材を受け入れることにあります。特に、留学生や高度専門職、技能実習生などの受け入れを円滑に進めることは、日本の経済成長や国際協力の観点からも重要です。手数料を設定すると、申請者の負担が増し、日本への入国をためらうケースが増える可能性があるため、国益に反すると考えられます。

2. 入管手続きの合理化と効率化

認定証明書の発行は、入国後の在留資格審査を事前に行うことで、日本国内の入国管理業務を軽減する役割を果たします。事前に適格性を判断することで、入国審査の負担が減少し、行政手続き全体の効率化につながります。そのため、手数料を徴収せずとも、管理業務の円滑化という目的が達成できるのです。

3. 申請者の属性

認定証明書の申請者には、留学生や技能実習生、家族滞在者など、経済的に余裕のない層が多く含まれます。手数料を設けることで、特に発展途上国からの申請者にとって大きな負担となり、申請を断念するケースが増える可能性があります。その結果、日本が必要とする人材の受け入れが阻害される恐れがあるため、費用負担を抑える政策が採られています。

4. 他の手続きでの費用負担とのバランス

認定証明書自体は無料ですが、ビザ申請時には在外公館で手数料が発生します(一般的に3,000~6,000円程度)。また、入国後の在留資格変更や更新には手数料がかかるため、総合的に見ると一定の費用負担が生じます。こうした状況を考慮し、認定証明書の手数料を無料とすることで、申請者に過度な負担をかけないよう配慮していると考えられます。

3. 他国の類似制度との比較

(1) アメリカ(ビザ申請と入国許可)

アメリカでは、日本の認定証明書に相当する事前審査制度は存在せず、すべての外国人が在外公館でのビザ申請時に審査を受ける仕組みとなっています。主要なビザの申請手数料は以下のとおりです。

• B(観光・商用ビザ):185ドル

• F(留学ビザ):185ドル

• H(就労ビザ):205ドル以上

アメリカのビザ審査は、日本の認定証明書に比べて厳格であり、追加の面接や審査が必要になる場合が多いです。手数料は高額ですが、審査コストを反映したものと考えられます。

(2) イギリス(入国許可証 “Visa Sponsorship”)

イギリスでは、日本の認定証明書に相当する「Certificate of Sponsorship(CoS)」が存在します。これは雇用主が発行し、ビザ申請時に提出するものですが、手数料が発生します。

• CoS発行手数料:239ポンド(約45,000円)

• ビザ申請手数料(例:Tier 2労働ビザ):約600~1,400ポンド

イギリスの制度は、手数料を徴収することで審査費用を賄い、入国管理を厳格にする意図があると考えられます。

(3) カナダ(移民プログラム)

カナダでは、労働ビザや学生ビザの申請時に、事前審査として「Invitation to Apply(ITA)」や「Labour Market Impact Assessment(LMIA)」が必要になる場合があり、これらには手数料がかかります。

• LMIA審査手数料:1,000カナダドル(約110,000円)

• 学生ビザ申請手数料:150カナダドル(約16,500円)

カナダの制度は、雇用者や申請者に負担を求める形になっており、日本の無料制度とは対照的です。

4. 日本の制度の特徴と今後の展望

日本の認定証明書制度は、申請者の負担を軽減し、適法な外国人の受け入れを促進することを目的としています。他国と比較すると、日本は申請者の負担を最小限に抑える制度を採用しており、国際競争力の維持にも貢献しています。

しかし、今後は申請件数の増加に伴い、審査の負担が増大する可能性があります。そのため、一部のカテゴリーに手数料を導入する可能性も考えられます。例えば、高度専門職ビザの認定証明書申請については、企業が申請する場合に限り手数料を徴収するなどの方式が考えられるでしょう。

5. 結論

日本の在留資格認定証明書の交付申請に手数料がかからないのは、制度の公共性、行政手続きの効率化、申請者の属性、他の手続きとのバランスを考慮した結果です。他国と比較すると、日本は申請者の負担を軽減し、外国人の受け入れを促進する制度を採用していますが、今後の制度改正の可能性も視野に入れる必要があるでしょう。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。