日本における技能実習制度や特定技能制度は、国内の労働力不足を補いながら、開発途上国の人材育成を目的としています。しかし、近年これらの制度の下で、妊娠した技能実習生や特定技能人材が不当な扱いを受ける事例が多発(2024/11/18 集英社オンライン 等)しており、人権問題として国内外から厳しい批判を受けています。本稿では、具体的な実例、批判の内容、政府および民間の対応について述べます。

1. 妊娠した技能実習生や特定技能人材の実例

(1) 妊娠を理由とした退職や帰国の強要

妊娠が発覚した技能実習生や特定技能人材が、契約違反を理由に雇用主から退職や帰国を強要される事例が多く報告されています。あるベトナム人技能実習生は妊娠を報告した際、「妊娠した場合は帰国する」という契約条項を根拠に帰国を命じられました。これらの契約は日本の労働基準法や男女雇用機会均等法に反しているとされますが、実習生や特定技能人材は雇用者の支配下にあるため、適切な対抗手段を取れない場合が多いのが現状です。

(2) 堕胎の強要や妊娠隠蔽の指示

別の事例では、妊娠した実習生や特定技能人材が雇用主から堕胎を強要されたり、妊娠を隠して働き続けるよう指示されるケースがあります。拒否した場合には、解雇やビザの更新を拒否されるなどの報復を受ける可能性があるため、精神的なプレッシャーに追い込まれる労働者が少なくありません。

(3) 職場での嫌がらせや過重労働

妊娠後、雇用主から嫌がらせを受けたり、過重労働を強いられる事例も存在します。妊婦に適した業務や勤務時間への配慮がされず、健康や安全が脅かされる状況が報告されています。

2. 国内外からの批判

(1) 国内での批判

日本国内では、人権団体や法律家から制度の問題点が指摘されています。日本弁護士連合会は、「技能実習制度や特定技能制度は労働者の権利を侵害しやすい構造的問題を抱えている」と批判しています。妊娠や出産を理由とした差別や解雇は、労働基準法や男女雇用機会均等法、さらには母子保護法にも違反しています。このような状況を受け、制度の抜本的な見直しを求める声が高まっています。

また、NPOやNGOなどの市民団体も妊娠した外国人労働者に対する支援活動を強化しており、彼らが抱える問題について社会的な認知を広める取り組みを行っています。地方自治体においても、外国人労働者向けの相談窓口を設置するなどの対応が進められていますが、十分な解決には至っていません。

(2) 海外からの批判

海外からも日本の制度に対する批判が相次いでいます。特に、技能実習生や特定技能人材を多く送り出しているベトナムやフィリピンでは、日本が自国民を搾取しているとの懸念が示されています。国際労働機関(ILO)や国連も、日本における外国人労働者の人権問題を注視しており、改善を求める声明を発表しています。

これらの批判は、日本が人権を尊重する国家としての国際的な信頼を損なう要因となっています。また、送り出し国における日本のイメージ低下は、今後の人材確保にも影響を及ぼす可能性があります。

3. 政府と民間の対応

(1) 政府の対策

日本政府は、技能実習制度および特定技能制度における人権侵害を防ぐため、以下の取り組みを行っています。

1.     法整備の強化

2017年に「技能実習法」が施行され、技能実習生の労働環境を監督する仕組みが整備されました。しかし、この法律では妊娠や出産に関連する具体的な規定が不十分であり、さらなる改善が必要とされています。

2.     相談窓口の設置

外国人技能実習機構(OTIT)が運営する相談窓口が各地に設置され、技能実習生や特定技能人材が問題を報告できる環境が整備されています。しかし、言語の壁や報復への恐怖から相談をためらうケースが多く、実効性に課題が残っています。

3.     送り出し国との連携強化

ベトナムやフィリピンなどの送り出し国と協力し、労働者が安心して働ける仕組みを構築する取り組みが進められています。これには、妊娠や出産に伴うトラブルに迅速に対応する体制の構築が含まれます。

(2) 民間の取り組み

一部の企業や団体は、妊娠した外国人労働者に対する支援を進めています。

  1.     職場環境の改善

妊娠中の技能実習生や特定技能人材が安全に働けるよう、業務内容や勤務時間を見直す企業が増えています。また、産休や育休の取得を支援する取り組みも見られます。

2.     NPOやNGOによる支援

外国人労働者を支援するNPOやNGOが、法的支援や医療サービスの提供を通じて妊娠中の実習生や技能人材を支えています。これらの団体は、相談窓口の運営やカウンセリングを通じて、孤立することなく問題を解決できるよう支援しています。

4. 残された課題と今後の展望

妊娠した技能実習生や特定技能人材の人権問題を解決するためには、以下の課題への取り組みが必要です。

(1) 制度の構造的改革

技能実習生や特定技能人材を「労働者」として明確に位置付け、労働基準法や男女雇用機会均等法などの適用範囲を拡大する必要があります。

(2) 監視体制の強化

雇用主の不正行為を防ぐため、監査体制を強化し、違反に対する厳しい罰則を設けることが求められます。

(3) 実習生や特定技能人材の声を反映する仕組み

実習生や特定技能人材が制度運用に意見を反映できる仕組みを構築することで、現場の課題を迅速に把握し対応できる環境を整えることが重要です。

結論

妊娠した技能実習生や特定技能人材への不当な扱いは、日本社会が抱える深刻な人権問題です。これを解決するためには、制度改革に加え、社会全体で外国人労働者の権利を尊重する意識を高めることが必要です。政府、民間、国際社会が協力し、安心して働ける環境を整備することが、日本が人権尊重の姿勢を示し、国際社会での信頼を確立する鍵となるでしょう。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。