CINRA 2024/09/06の記事によれば、”新たなニュース番組『やさしいことばニュース』が、9月30日からNHKラジオ第1放送でオンエアされる。同番組は、最新のニュースを、難しい言葉をできるだけ使わずわかりやすい表現で伝えるニュース番組だ。長年ニュースや番組でより伝わる表現を追求してきたスタッフが、在留外国人向けの言葉として広がっている「やさしい日本語」での表現を目指して原稿を制作”とのこと。
「やさしい日本語」とは、日本語を母語としない外国人や、日本国内の障がいを持つ人、あるいは子どもや高齢者などに対して、通常の日本語をわかりやすく言い換えた簡単な表現方法を指します。特に、災害時の情報伝達や行政手続き、公共サービスの案内など、正確で迅速な情報提供が求められる場面で多く活用されています。この取り組みは、日本の多文化共生社会の実現を目指し、情報の受け手に配慮したコミュニケーションを推進するために重要な役割を果たしています。
「やさしい日本語」の誕生背景
「やさしい日本語」の概念が広く認識されるようになったのは、1995年の阪神・淡路大震災が契機です。当時、被災した外国人住民への情報提供が十分に行き届かず、言語の壁によって避難が遅れるケースが発生しました。この事態を受け、災害時には日本語を母語としない人々にも理解しやすい表現が必要であるという認識が広がり、「やさしい日本語」という取り組みが提案されました。
その後、「やさしい日本語」は災害時に限らず、日常的な行政や公共のサービスにおいても有効なコミュニケーション手段として注目されるようになりました。特に、観光や移民、留学生の増加に伴い、言語バリアを解消し、多くの人が快適に暮らせる社会を実現するための手段として位置づけられています。
「やさしい日本語」の特徴
「やさしい日本語」は、通常の日本語を簡素化し、短い文や平易な言葉を使うことが特徴です。具体的には以下の点がポイントです。
1. 漢字の制限: 難しい漢字は避け、ひらがなやカタカナ、ふりがなを使う。または、使用する漢字を限定し、できるだけ少ない数に抑える。
2. 短い文にする: 長い文章や複雑な構文を避け、1文をできるだけ短く、主語と述語を明確にする。
3. 簡単な言葉を使う: 専門用語や難解な言葉を避け、日常的な単語に置き換える。
4. 受け手の視点で考える: 説明が必要な言葉や概念には、例を挙げて説明するなど、相手が理解しやすい工夫をする。
このような手法により、「やさしい日本語」は日本語学習者や外国人だけでなく、子どもや高齢者、認知症を持つ人々にも役立つコミュニケーションツールとなっています。
活用事例
1. 災害時の情報提供
災害が発生した際に、日本語がわからない外国人住民に対して適切な情報を伝えることは命に関わる問題です。各地の自治体では、災害時の避難指示や災害情報を「やさしい日本語」で提供する取り組みが進められています。例えば、自治体のウェブサイトや防災アプリでは、「やさしい日本語」での情報提供が行われ、簡単な日本語で避難場所や避難手段が説明されています。また、地震や台風などの災害発生時には、外国語対応が難しい場面でも「やさしい日本語」を使うことで、多くの人に迅速かつ正確な情報を提供できるようになっています。
2. 行政手続きでの活用
外国人が日本で生活する上で、役所での手続きは避けられません。しかし、行政文書は難解な表現が多く、外国人にとって理解するのが難しい場合が多いです。そのため、多くの自治体では、住民票や税金、保険に関する案内を「やさしい日本語」で説明するパンフレットやウェブサイトを整備しています。これにより、外国人住民が自分で手続きを進めることが可能となり、言語によるハードルを下げることができています。
3. 医療機関での活用
病院での診療や治療において、外国人患者が自分の症状を適切に伝え、医師の説明を理解することは非常に重要です。しかし、医療に関する言葉は専門的で難しいため、コミュニケーションがうまくいかないことが少なくありません。このような状況を改善するため、一部の医療機関では、受付や診察時に「やさしい日本語」を用いた対応が進められています。簡単な言葉を使った診療案内や、診断結果の説明が行われ、患者が安心して医療を受けられる環境が整えられつつあります。
4. 教育現場での活用
日本国内には、日本語を母語としない子どもたちも多く在籍しており、学校の授業についていくことが難しい場合があります。教育現場では、これらの子どもたちが学びやすいように、教科書や授業で「やさしい日本語」が使われることが増えています。また、教師が日本語を簡単に説明したり、指示を出す際に「やさしい日本語」を活用することで、外国人児童・生徒が授業内容を理解しやすくなり、学習の機会を均等に提供することが可能となっています。
5. 観光業での活用
観光客にとって、言語の壁は大きな障害となることがあります。特に、日本を訪れる外国人観光客は、日本語が全くわからないことが多いため、観光地や交通機関では「やさしい日本語」の案内が重要です。例えば、観光地の案内板やパンフレットに「やさしい日本語」を使用したり、観光ガイドが外国人観光客に対して簡単な日本語で説明を行うことで、言語に不安を感じる観光客でもスムーズに観光を楽しむことができるようになります。
課題と今後の展望
「やさしい日本語」は、誰もが情報にアクセスできる多文化共生社会を実現するための重要な手段ですが、いくつかの課題も存在します。例えば、「やさしい日本語」を使う際に、どの程度の難易度に設定すべきかという基準がまだ曖昧である点です。また、通常の日本語を使う日本人とのコミュニケーションにおいては、「やさしい日本語」を使うことが逆に疎外感を生む可能性もあります。
今後は、「やさしい日本語」をさらに広く普及させるための教育やトレーニングが必要です。行政や企業、教育機関だけでなく、一般市民にもこの概念を理解し、日常生活の中で活用できるようになることで、多様な文化や背景を持つ人々が共生できる社会が築かれることが期待されます。