はじめに

「インドAI人材が日本へ、中小企業に関心-円安でも企業文化に魅力」(Bloomberg 2024/8/9)によれば、AI人材を含めた「高度専門職」で日本に在留する外国人のうち、インド国籍を持つ人は23年12月時点で1272人。5年間で2.4倍に増加しているとのこと。

日本は、少子高齢化による労働力不足の問題に直面しており、特にIT技術者を含む高度な技術や知識を持つ外国人の受け入れに積極的です。日本でのIT技術者の就労を希望する外国人にとって、選択肢となる在留資格は「高度専門職」と「技術・人文知識・国際業務」の二つが主に考えられます。

これらの在留資格は、それぞれ異なる特徴と利点を持ち、申請者の状況やキャリアプランに応じた選択が必要です。本稿では、両者の特徴を比較し、どちらの在留資格を検討すべきかについて詳細に説明します。

1. 在留資格「技術・人文知識・国際業務」とは

「技術・人文知識・国際業務」は、日本での外国人労働者向け在留資格の中で最も一般的なものの一つです。この在留資格は、主に次の三つのカテゴリーに分かれています:

  • 1. 技術:IT技術者やエンジニアなど、理系分野で専門知識や技術を持つ人を対象としています。プログラマーやシステムエンジニアなどが該当します。
  • 2. 人文知識:法学、経済学、社会学など、文系分野の専門知識を有する人を対象としています。
  • 3. 国際業務:翻訳、通訳、マーケティング、海外取引業務など、外国との取引やコミュニケーションに関わる業務を行う人が対象です。

IT技術者の場合、主に「技術」に該当することが多く、この在留資格を取得することで、日本でIT業務に従事することが可能になります。

申請要件:

学歴または職歴:

通常、申請者は大学卒業以上の学歴が求められますが、IT技術者の場合、実務経験が豊富であれば、学歴がなくとも申請が可能な場合があります。

雇用契約:

申請者は、日本の企業と雇用契約を結んでいる必要があります。契約内容には、具体的な業務内容が記載されていることが求められます。

利点:

手続きが比較的簡易:

必要な書類が整っていれば、比較的スムーズに申請が進むことが多いです。

柔軟性:

業務内容が「技術」または「人文知識・国際業務」に該当すれば、幅広い職種での活動が可能です。

家族帯同:

配偶者や子供を帯同することが可能です。

2. 在留資格「高度専門職」とは 

「高度専門職」は、特に高度な専門知識や技術を持つ外国人に対して発行される在留資格です。これは、優秀な外国人材の獲得と日本での定住促進を目的としており、申請者の学歴、職歴、年収、日本語能力などに基づいたポイント制度で評価されます。IT技術者であれば、システムアーキテクト、プロジェクトマネージャー、高度なプログラミングスキルを持つエンジニアなどが対象になります。

ポイント制度:

学歴:

大学院修士号以上の学位を持つと、ポイントが加算されます。特に理工系の学位は高い評価を受けます。

職歴:

10年以上の職歴を持つ場合、ポイントが高くなります。特にIT業界での経験は評価が高いです。

年収:

年収が800万円以上であれば、さらにポイントが加算されます。

年齢:

30代までの若年層は高く評価されます。

日本語能力:

日本語能力試験(JLPT)N1を取得しているとポイントが加算されます。

利点:

優遇措置:

高度専門職に認定されると、永住権の取得が通常の10年間の滞在期間から、わずか1年または3年で可能となります。

幅広い活動範囲:

複数の企業での就業や、起業も可能です。また、研究活動や教育活動への従事も認められます。

家族の優遇:

配偶者が「特定活動」ビザを取得し、フルタイムでの就労が可能になります。さらに、両親の帯同や家事使用人の帯同も条件を満たせば可能です。

3. 「技術・人文知識・国際業務」と「高度専門職」の比較

学歴・職歴の要件

「技術・人文知識・国際業務」は、大学卒業以上の学歴が基本的に必要ですが、職歴が豊富であれば学歴がなくても認められる場合があります。これに対して、「高度専門職」は大学院修士号以上の学位や豊富な職歴が求められ、これがポイント制度で評価されます。

年収要件

「技術・人文知識・国際業務」には特定の年収要件はありませんが、「高度専門職」では年収がポイント評価の重要な要素となります。したがって、年収が高い場合は「高度専門職」が有利になります。

永住権取得までの期間

「技術・人文知識・国際業務」の場合、通常の永住権取得には10年間の滞在が必要です。しかし、「高度専門職」は1年または3年で永住権が取得できるため、日本で長期的なキャリアを築くことを目指す場合に大きな利点となります。

家族の帯同

両者とも家族の帯同が可能ですが、「高度専門職」の場合、配偶者がフルタイムで就労できる点や、両親の帯同が可能になる点でより充実した家族支援が提供されます。

就業範囲

「技術・人文知識・国際業務」は、特定の業務に従事することが求められ、他の分野での仕事は認められません。これに対して、「高度専門職」は幅広い業務に従事でき、起業や他の企業での就労も可能です。

4. どちらを選択すべきか?

 IT技術者がどちらの在留資格を選択すべきかは、個々の状況やキャリアプランに依存します。

短期的に日本で働きたい場合:

「技術・人文知識・国際業務」が適しています。手続きが比較的簡単で、幅広い業務に従事できるため、すぐに仕事を始めることができます。

長期的に日本に定住し、キャリアを築きたい場合:

「高度専門職」が有利です。永住権の取得が早く、家族の支援が充実しており、また、柔軟な就業範囲が認められるため、将来的なキャリアの幅が広がります。

高い年収や学歴を持っている場合:

「高度専門職」がより適している可能性が高いです。ポイント制度を活用して、より有利な在留資格を取得できるでしょう。

年収や学歴が標準的な場合:

「技術・人文知識・国際業務」が現実的です。この在留資格は、より多くのIT技術者にとって取得が容易であり、日本での就労をすぐに開始できます。

結論

IT技術者が日本での就労を目指す場合、「技術・人文知識・国際業務」と「高度専門職」のいずれを選択するかは、申請者の学歴、職歴、年収、将来のキャリアプランに大きく依存します。

短期的な就労を希望する場合や、比較的低い年収でも問題ない場合は「技術・人文知識・国際業務」が適しています。一方で、長期的に日本でキャリアを築き、永住を視野に入れる場合や、高い年収を得ている場合は「高度専門職」がより有利な選択となります。

どちらの在留資格を選択するにせよ、日本での生活やキャリアに対する明確な目標を持ち、自身の状況に最も適した在留資格を選ぶことが重要です。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。