特定技能外国人を受け入れる企業や登録支援機関にとって、社会保険への加入は重要な実務の一つです。外国人であっても要件を満たせば厚生年金への加入義務があり、適正に加入させなければなりません。

しかし、「日本で働く以上、年金に加入してください」と説明するだけで十分でしょうか。

特に考える必要があるのが、日本で数年間働いた後、母国へ帰国する特定技能外国人です。

日本で加入した年金期間を帰国後の母国の年金制度につなげられる人もいれば、それができない人もいます。そして特定技能外国人には、後者に該当する国の出身者が非常に多いのです。

だからこそ、特定技能所属機関や登録支援機関には、加入時の説明だけでなく、帰国時に「日本で加入した年金をどうするのか」まで説明することが重要だと考えます。

重要なのは「社会保障協定があるか」だけではない

日本は複数の国との間で社会保障協定を締結しています。

社会保障協定には、大きく分けて二つの役割があります。一つは、日本と母国の双方で社会保険料を負担する「二重加入」を防止すること。もう一つは、日本と相手国の年金加入期間を「通算」して、年金の受給資格を判断できるようにすることです。

ここで注意したいのは、社会保障協定があるからといって、必ず年金加入期間を通算できるわけではないということです。

例えば、日本は英国、韓国、中国、イタリアとも社会保障協定を発効させていますが、これらの国との協定には年金加入期間の通算規定がありません。

したがって、外国人への年金説明で確認すべきなのは、単純に「あなたの国と日本には社会保障協定があります」ということではありません。

「あなたが日本で加入した年金期間を、母国の年金受給資格の判定に通算できるのか」

ここまで確認する必要があります。

日本年金機構「社会保障協定」

「通算」とは、日本の年金を母国へ移すことではない

年金加入期間の「通算」についても、正確な理解が必要です。

例えば、日本で5年間、母国で7年間年金制度に加入した場合に、「12年分の年金を母国からまとめて受け取る」という意味ではありません。

社会保障協定による通算とは、年金の受給資格を判定する際に、相手国での加入期間を考慮する仕組みです。

通算によって受給資格を満たした場合でも、日本は日本の制度への加入期間に応じた年金を支給し、相手国は相手国の制度への加入期間に応じた年金を支給するのが基本です。

つまり、重要なのは「日本で働いた期間が、帰国した瞬間に年金制度上孤立してしまうのか、それとも将来の年金受給資格につなげられるのか」という違いです。

日本年金機構「協定相手国の年金支給の特例」

特定技能外国人には「通算できない国」の出身者が多い

この問題が特定技能制度において特に重要なのは、特定技能外国人の主要な出身国を見ると、日本との間で年金加入期間を通算できない国が多いからです。

代表的なのが、ベトナム、インドネシア、ミャンマー、ネパールなどです。

これらの国は特定技能外国人の主要な出身国ですが、現在、日本との間で年金加入期間を通算できる社会保障協定が発効していません。

一方、フィリピンについては日本との社会保障協定があり、年金加入期間を通算する仕組みがあります。

したがって、同じ特定技能外国人であっても、出身国によって日本で加入した年金期間の将来的な意味が異なります。

「外国人だから同じ説明をする」のではなく、出身国との社会保障協定と年金期間の通算可否を確認することが、本来は重要なのです。

特定技能1号は原則5年―だから脱退一時金が重要になる

特定技能1号は、在留できる期間が原則として通算5年までという制度です。

日本の老齢年金の受給資格期間は原則10年ですから、特定技能1号として5年間だけ日本で働いて帰国する人は、特定技能1号の期間だけでは通常、この10年に到達しません。

さらに、出身国との間で年金加入期間を通算できなければ、母国での加入期間と日本での加入期間を組み合わせて受給資格を満たすこともできません。

そこで重要になるのが「脱退一時金」です。

脱退一時金は、日本国籍を有しない人が日本の公的年金制度の被保険者資格を喪失して出国した場合などに、一定の要件を満たせば請求できる制度です。

しかも、特定技能1号の創設などを踏まえ、2021年4月から脱退一時金の支給額計算に用いる加入期間の上限は、それまでの36か月から60か月へ引き上げられました。

つまり、現在の脱退一時金制度自体が、5年間という特定技能1号の在留期間と非常に関係の深い制度になっています。

日本年金機構「脱退一時金の制度」

月収25万円で5年間なら、脱退一時金は約143万円のケースも

例えば、賞与を考慮せず、月収25万円程度で5年間厚生年金に加入した特定技能外国人を考えてみます。

標準報酬月額を26万円として単純化すると、60か月以上加入した場合の支給率5.5を用いて、脱退一時金は概算で次のようになります。

26万円 × 5.5 = 約143万円

決して小さな金額ではありません。

一方、厚生年金保険料率18.3%のうち本人負担は原則として半分の9.15%です。同じ条件で5年間の本人負担額を単純計算すると、

26万円 × 9.15% × 60か月 = 約142万7,000円

となります。

このモデルでは、5年間に本人が負担した厚生年金保険料と脱退一時金が、ほぼ同程度の金額になります。

もちろん、実際の脱退一時金は標準報酬月額、賞与、加入期間などによって異なります。また、厚生年金は老齢年金だけでなく障害・遺族給付などの保険機能を持つ制度であり、単純な積立金の返還制度ではありません。

それでも、100万円を大きく超える可能性のある制度について、本人が何も知らないまま帰国してしまうことは避けるべきでしょう。

「加入する義務」だけ説明し、「受け取る権利」を説明しないのは適切か

特定技能外国人に対して、「日本で働く以上、社会保険に加入しなければなりません」と説明することは必要です。

しかし、義務を説明するのであれば、その制度から生じる権利についても説明することが重要です。

特に、日本との間で年金加入期間を通算できない国へ帰国する外国人にとっては、日本で数年間加入した厚生年金をその後どうするのかは、大きな問題です。

帰国後に脱退一時金を請求できる可能性があるにもかかわらず、その制度を知らないまま請求期限を過ぎてしまえば、本人にとって大きな不利益となり得ます。

外国人に負担を求める以上、その外国人が利用できる給付についても、理解できる形で説明する。

これは単なる親切ではなく、外国人を適正に受け入れる制度運用の観点から重要なことではないでしょうか。

脱退一時金は帰国後、海外から請求できる

脱退一時金は、帰国してしまったら請求できない制度ではありません。

一定の要件を満たせば、日本国内に住所を有しなくなった日から原則2年以内に、日本年金機構へ請求できます。

海外から請求書等を提出し、要件を満たせば、本人名義の海外銀行口座を指定して受給することも可能です。

したがって、帰国前には少なくとも、次の点を本人が理解できるよう説明しておくことが望ましいでしょう。

・脱退一時金を請求できる可能性があること
・原則として請求期限があること
・帰国後、海外から請求できること
・本人名義の海外銀行口座を利用できること
・必要書類や請求方法
・脱退一時金を受け取った場合の年金加入期間への影響

厚生年金の脱退一時金では税金の説明も重要

厚生年金の脱退一時金では、支給時に所得税等が源泉徴収されます。

例えば約143万円の脱退一時金について20.42%が源泉徴収されるとすると、約29万円が差し引かれる計算になります。

しかし、この源泉徴収額が最終的な税額とは限りません。確定申告によって所得税等を精算し、還付を受けられる場合があります。

そのため、帰国後の税務手続や、必要に応じて日本国内の納税管理人を選任することについても、あわせて情報提供することが有用です。

脱退一時金だけ説明して、そこから相当額の税金が差し引かれることや、その後の精算方法を説明しなければ、本人が制度を十分に利用できない可能性があります。

国税庁「退職金を受け取ったとき(退職所得)」

ただし、全員に脱退一時金を勧めてはいけない

ここが最も注意すべきところです。

脱退一時金は「外国人が帰国するときにもらえるお金」とだけ説明すべき制度ではありません。

脱退一時金を受給すると、その計算の基礎となった日本の年金加入期間は、将来の年金受給資格を考える際に使えなくなります。

例えば、日本で5年間加入した人が脱退一時金を受給すれば、その5年間を将来の日本の老齢年金につなげることはできなくなります。

将来もう一度日本で働く可能性がある人、日本での年金加入期間がすでに10年に近い人、あるいは母国との社会保障協定によって加入期間を通算できる人については、脱退一時金を受け取らず、加入期間を残しておく方が適切な場合があります。

したがって、所属機関や登録支援機関が「帰国するなら脱退一時金を請求してください」と一律に勧めることも適切ではありません。

帰国時には、まず3つに分けて考える

実務上は、帰国する特定技能外国人について、少なくとも次の3つの観点から確認すると分かりやすいでしょう。

① 母国との間で年金加入期間を通算できる人
脱退一時金を受け取ることと、加入期間を残して将来の年金につなげることの双方を説明し、本人が判断できるようにします。

② 母国との間で年金加入期間を通算できない人
日本での加入期間や将来の再来日予定などを確認したうえで、脱退一時金という制度があること、その請求方法・期限・税務上の取扱いを重点的に説明します。

③ 日本の年金受給資格期間である10年に近い人
技能実習、留学中の就労後の加入、特定技能、その他の在留資格での就労など、日本での過去の加入歴を確認する必要があります。脱退一時金を受け取ることによって将来の老齢年金受給に影響する可能性があるため、特に慎重な説明が必要です。

帰国支援チェックリストに「年金の出口」を

特定技能所属機関や登録支援機関では、帰国支援のチェック項目として、次のような事項を確認してはいかがでしょうか。

・日本での年金加入期間を確認したか
・出身国との社会保障協定の有無を確認したか
・協定がある場合、年金加入期間を通算できる協定なのか確認したか
・将来、日本で再び働く予定・可能性を確認したか
・脱退一時金を受け取るメリットとデメリットを説明したか
・脱退一時金の請求期限を説明したか
・海外からの請求方法を説明したか
・海外の本人名義口座への送金について説明したか
・厚生年金の脱退一時金に関する税務上の取扱いを説明したか
・必要に応じて年金事務所や税理士等の専門家への相談を案内したか

「払わせる支援」から「制度につなげる支援」へ

特定技能外国人にも、日本社会の一員として税や社会保険料を適切に負担してもらう必要があります。

しかし、社会統合とは外国人に義務だけを求めることではありません。

外国人に「厚生年金に加入してください」と求めるのであれば、日本で負担した年金保険料が将来どのような権利につながるのか、母国の年金制度とつながるのか、つながらないのであれば脱退一時金という選択肢があることまで説明する。

そして、本人が将来の生活設計を考えたうえで選択できるようにする。

特に、年金加入期間を通算できない国の出身者が多い特定技能制度だからこそ、この説明は重要です。

外国人に義務を履行してもらう一方で、その制度から生じる権利を現実に行使できるよう支援する。

特定技能所属機関や登録支援機関には、「加入させたら終わり」ではなく、「帰国するとき、その年金をどうするのか」まで視野に入れた支援が求められているのではないでしょうか。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。