世界が分断へと傾く中、
移民政策はしばしば「感情」の影響を強く受けています。

・不安
・怒り
・被害意識
・公平感の揺らぎ

これらは無視してよいものではありません。
しかし――

制度は感情の発露ではなく、
理性の装置でなければなりません。


1.通報奨励型政策という発想

近年、一部で「不法滞在者を通報すれば報奨を与える」といった発想が語られることがあります。(不法就労通報、茨城県が報奨金 全国最多も、差別助長の懸念 2026-2-21 共同通信)

一見すると、

  • 法令順守を促す
  • 違法状態を是正する
  • 行政コストを下げる

という合理性があるようにも見えます。

しかし、均衡共生モデルの視点から見れば、
そこには重大なリスクがあります。


2.制度が生む“相互監視社会”

通報奨励型政策が制度化された場合、何が起きるでしょうか。

  • 外国人住民に対する疑念の常態化
  • 外見や言語による推測通報
  • 職場・近隣関係の破壊
  • 誤通報による社会的損失

法令違反の是正は重要です。
しかしそれを「市民間の対立構造」に委ねることは、
共生基盤を侵食します。

制度は秩序を守るためにあるのであって、
分断を拡大するためにあるのではありません。


3.法の執行と社会の信頼は両立できるか

均衡共生モデルは、
「無制限の受け入れ」を主張するものではありません。

むしろ逆です。

  • 在留資格制度の厳格運用
  • 不正の排除
  • 公平な審査
  • 責任ある受け入れ

これらは不可欠です。

しかし同時に、

  • 人格の尊重
  • 推定無罪
  • 社会的包摂
  • 恣意的運用の排除

も守られなければなりません。

強い法執行と社会的信頼は、
本来、対立概念ではありません。

対立させてしまう設計こそが問題なのです。


4.「違法」と「違反状態」は違う

実務の現場では、
意図的な偽装滞在と、制度理解不足や手続き遅延による違反状態は明確に異なります。

・在留資格変更申請中
・雇用契約トラブル
・帰国困難事情
・制度の複雑さによる誤認

一律の感情的対応は、
現場の実態を歪めます。

制度設計は、
違法行為の抑止
違反状態の是正機会の確保を区別しなければなりません。


5.国家の品格とは何か

国家の強さは、
排除の速度では測れません。

それは、

  • 手続の公正さ
  • 説明可能性
  • 透明性
  • 冷静さ

によって測られます。

怒りに迎合する制度は、
一時的な支持を得るかもしれません。

しかし長期的には、
社会の信頼資本を削ります。


6.均衡共生モデルの立場

均衡共生モデルは、

✔ 数量だけで議論しない
✔ AI代替論に逃げない
✔ 感情で制度を設計しない
✔ 無秩序も排除も選ばない

その中間にある
理性に基づく秩序形成を目指します。

秩序は必要です。
しかしその秩序は、
社会を分断する方法で作られてはならない。

制度とは、
社会の未来の設計図だからです。


次回予告

次回は、
「外国人政策における“量的管理”と“質的管理”の本質的違い」
を掘り下げます。

数量を管理することと、
社会を設計することは同義ではありません。

在留・入管関連ニュース

投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。