外国人の受入れの基本的な在り方の検討のための論点整理(令和7年8月法務大臣勉強会)」が示す現状認識は、我が国の入管政策の課題を改めて浮き彫りにしたものといえる。特に驚くべきは、常に外国人の在留管理政策を所管し、国家の人口動態や社会構造に最も敏感であるべき法務大臣周辺においてすら、これまで「量的マネジメント」や「高い外国人比率を想定した社会への影響」を戦略的に議論してこなかったと認めている点である。人口減少・少子高齢化が深刻さを増し、労働力不足が構造的に顕在化している現在、外国人受入れの方向性を長期的・包括的な視野で検討しないことは、国家としての持続可能性を危うくするものである。

まず、この驚きの背景には、我が国の入管政策が長らく「必要に応じた暫定的受入れ」にとどまり、社会全体の将来像に基づいた体系的戦略を欠いてきた事実がある。例えば技能実習制度は、本来「国際貢献」として導入されたものであったが、実態としては人手不足を補う低賃金労働力供給源となり、多くの問題を生んできた。留学生の受入れにしても、教育政策というよりは労働市場の補完として機能している面が強い。つまり「必要なときに必要な分だけ」という発想に基づく断片的施策が繰り返され、結果として外国人が社会に恒常的に存在する現実への準備や議論が置き去りにされてきたのである。

しかし、現下の状況を考えれば、もはや「一時的」あるいは「例外的」な外国人受入れの枠組みでは持続不可能であることは明らかだ。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、日本の総人口は今後数十年にわたり減少を続ける。その中で生産年齢人口は急速に減少し、国内だけでは産業を支える労働力を確保することが困難になる。ロボットやAIによる自動化が進展したとしても、人間の手を完全に代替することは難しく、またサービス業や介護など「人対人」の領域はむしろ拡大が予想される。したがって、外国人労働力の受入れは選択肢ではなく必然の課題となっている。

さらに重要なのは、外国人の受入れは単なる「労働力の補填」にとどまらず、社会の持続可能性そのものに関わるという視点である。人口構造が急速に縮小・高齢化する中で、外国人住民が地域社会に定着することは、地域の活力を維持し、税収や社会保障制度の支え手を確保するためにも不可欠である。すでに地方都市においては、外国人住民の存在が学校、地域経済、医療や介護の現場を支えており、彼ら抜きには日常生活が成り立たない状況も見られる。したがって「どのように外国人を受け入れるか」という問いは、「我が国の社会をどのように維持・再構築していくか」という問いと不可分なのである。

それにもかかわらず、これまで体系的議論がなされてこなかったのは、日本社会が「移民国家」を自覚的に選び取ることを回避してきたことに起因する。すなわち「日本は移民国家ではない」という政治的スローガンが長らく繰り返され、それが戦略的議論を封じてきた。結果として、現実には既に外国人が不可欠な存在となっているにもかかわらず、社会としての受入れの覚悟や制度的整備が後手に回ってきたのである。これは極めて不健全な状況であり、持続可能な社会設計を目指す上で直ちに転換すべきである。

我が国が今後進むべき方向としては、以下の点が肝要である。

第一に、「量的マネジメント」の枠組みを明確にすることである。すなわち、将来的に必要とされる外国人労働力や定住人口を長期的な人口推計と産業構造の見通しに基づいて算定し、受入れの規模や分野を計画的に設計する。これにより、場当たり的な受入れや、過度に特定国出身者に依存する不均衡を回避できる。欧州諸国に見られるような「受入れの急増に伴う社会不安」を未然に防ぐためにも、透明性の高い受入れ目標を国民に提示し、社会的合意を形成することが必要である。

第二に、「制度の適正化」である。技能実習制度に代わる新たな仕組みとして特定技能制度が導入されたが、依然として制度設計には課題が多い。単なる労働力供給のための制度ではなく、外国人が適正な労働条件の下で能力を発揮し、生活基盤を築き、必要に応じて長期的に定住できるような仕組みへと進化させるべきである。ここで求められるのは、「一時的労働力」としてではなく、「共に生きる市民」として外国人を位置づける発想の転換である。

第三に、「社会統合政策」の充実が欠かせない。言語教育、就労支援、子どもの教育、医療や福祉へのアクセス、地域コミュニティとの交流支援など、多層的な統合政策を整備する必要がある。特に子どもの教育環境を整えることは、次世代にわたる社会統合の基盤となる。外国人児童生徒が日本語教育を受けられずに学習から取り残される現状を放置すれば、社会的分断や不平等の固定化を招き、将来的な社会的コストを増大させることになる。

第四に、「多文化共生社会の理念」を国家の基本方針として明示することである。多様な文化や価値観を尊重し、相互理解を深めることでこそ、外国人の受入れは社会の活力を生み出す。国際社会における日本の地位を高めるためにも、閉鎖性ではなく開放性を前面に出す姿勢が求められる。これは単に外国人のためではなく、日本社会自身の存続と繁栄のために必要不可欠である。

総じて言えば、これまでの「消極的・暫定的な外国人受入れ」から脱却し、「戦略的・積極的な社会設計」としての外国人政策へと転換することが急務である。その際に大切なのは、外国人を「数合わせの労働力」としてではなく、「共に未来を築く仲間」として位置づける視点である。法務大臣周辺がようやく「量的マネジメント」や「高外国人比率社会」を議論の俎上に載せたこと自体は一歩前進であるが、むしろ遅すぎた感すらある。この遅れを取り戻すべく、国民的議論を喚起し、政治が責任を持って方向性を示すべき時である。

我が国は、人口減少とグローバル化という歴史的な転換点に立たされている。外国人受入れを忌避することは、衰退を甘受することに等しい。必要なのは勇気を持って未来を見据え、共生社会の具体的設計を始めることである。そうして初めて、日本は持続可能で開かれた社会として次世代に継承され得るのである。

投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。