国内の外国人こそ、越境ECの出発点! 4000万人から始める海外進出(2025-09-01 )が示唆する新しい視点について記述したい。

近年、日本企業にとって「海外展開」は避けて通れない成長戦略の一つとされてきた。人口減少と少子高齢化が進む中で、国内市場のみをターゲットにしていては持続的な成長は困難である。そこで注目されてきたのが越境EC、すなわち国境を越えて商品やサービスをオンラインで販売する仕組みである。しかし、従来の海外戦略は「いかに海外に打って出るか」という発想に偏っていた。広告投資や物流網の整備、現地法人設立など、初期投資の負担が大きく、成功例も限られていたことは否めない。

ここで注目されるのが、記事が指摘する「まずは国内の外国人やインバウンド客をターゲットにせよ」という視点である。これは従来の「日本国内=日本人市場、海外=外国人市場」という二分法を超えるものであり、「日本国内にすでに存在する外国人を海外展開の出発点とみなす」という発想の転換である。これは単なるマーケティングの小手先の工夫ではなく、グローバル時代における市場認識の構造を根底から揺さぶる重要な視点である。


1. 「国内の外国人」を海外展開の踏み台とする戦略的意味

2024年時点で、日本には在留外国人が約360万人、訪日観光客が年間3,700万人に達している。合計すると4,000万人を超える外国人が日本国内に存在し、これは人口減少の日本社会において無視できない市場規模である。しかもこの層は単なる「一時的な購買者」ではなく、自国とのネットワークを持ち、情報発信力を備えている存在である。すなわち、日本国内の外国人顧客は単なる売上増の対象であるだけでなく、「海外市場への橋渡し」として機能する可能性を秘めている。

記事が提示する5つの顧客分類のうち、日本在住の既存顧客や新規顧客を優先すべきだとする理由もここにある。彼らは日本語や日本文化にある程度適応しており、商品理解やブランドへの共感が比較的得やすい。その一方で、彼らは母国や国際的ネットワークを通じて情報を拡散し、越境ECの潜在顧客を呼び込むアンバサダーとなり得る。実際、アパレルブランドが在日外国人客をアンバサダーに起用した事例では、国内での販売促進にとどまらず、海外売上の大幅な増加という成果につながったという。


2. 「段階的展開」という新しい国際戦略

もう一つ注目すべきは、記事が示す「段階的展開」の重要性である。すなわち、

  1. 日本在住の既存外国人顧客
  2. 日本在住の新規外国人顧客
  3. インバウンド観光客
  4. 海外在住の既存顧客
  5. 海外在住の新規顧客

という順序で顧客層を広げていく戦略である。従来は多くの企業が、いきなり4や5を狙い、現地法人設立や海外広告を展開してきた。しかし、この方法ではコストがかかるだけでなく、現地の文化的理解不足からブランドが定着せず、撤退に追い込まれることも少なくなかった。

一方で、国内の外国人を起点とした段階的展開は、①低コスト、②リスク分散、③実験的マーケティングが可能という利点がある。国内で外国人顧客の反応を確認し、商品やサービスを改良しながら徐々に市場を広げることで、越境ECのリスクを大幅に軽減できる。これはいわば「国内にいながら海外進出を試みる」手法であり、今後多くの企業にとって現実的かつ持続可能な成長モデルとなるだろう。


3. 「外国人常連客=ブランドアンバサダー」という視点

従来のマーケティングは、インフルエンサーや著名人を起用し、影響力のある人物にブランドを広めてもらうという手法が中心であった。しかし、記事の事例が示すように、日本在住の外国人常連客をアンバサダーとして活用する発想は新しい。これは「消費者=広告主」という二項対立を超え、日常的にブランドを愛用する顧客をそのまま国際的な広報役にするアプローチである。

この戦略には二つの強みがある。第一に、常連客の推薦は高い信頼性を持つ。友人や同郷の人々に対してリアルな購買体験を共有することで、口コミ効果が自然に広がる。第二に、常連客はブランドに対する愛着が強いため、企業にとっても持続的な協力関係を築きやすい。単なる広告契約ではなく、共創的な関係性が構築される点で、これまでの一過性のマーケティングを超える価値が生まれる。


4. 越境ECとインバウンドの相互補完関係

記事の論旨が示唆するもう一つの新しい視点は、越境ECとインバウンド消費の関係性である。従来は「インバウンド=観光業」「越境EC=EC業界」と別個の領域と捉えられていた。しかし実際には、訪日観光客が日本で体験した商品を帰国後に越境ECで購入するという消費行動が広がっている。つまり、インバウンド消費と越境ECは「一過性」と「持続性」の関係にあり、相互に補完し合う構造を持っている。

この構造を理解すれば、企業は訪日観光客に向けた販売を「単発の売上」として捉えるのではなく、「越境ECのファーストコンタクト」と位置づけられる。国内で得た購買体験をきっかけに、帰国後も継続的に商品を購入してもらうという流れを作ることができる。こうした発想の転換によって、インバウンドと越境ECが連動した統合的な国際戦略が可能になる。


5. 「海外展開=現地法人」からの脱却

最後に、記事が示す視点の本質は、「海外展開=物理的進出」という固定観念からの脱却である。これまで企業は、海外市場に参入するには現地法人の設立や物流網の整備が不可欠と考えてきた。しかし実際には、デジタル技術の発達や物流の国際化によって、必ずしも現地法人を構える必要はない。むしろ、越境ECの仕組みを整え、国内の外国人顧客を足掛かりに段階的に市場を広げる方が、効率的かつ持続的である。

つまり、海外市場を「遠くにあるもの」としてではなく、「すでに国内に存在するもの」と再定義することこそ、新しい時代の国際戦略である。グローバル化はもはや「外に出て行く」ことではなく、「内なる多様性を起点に外とつながる」ことへとシフトしている。記事が提示する視点は、その象徴的な事例である。


結論

以上のように、記事が示唆する新しい視点は、従来の「海外展開」観を根本から問い直すものである。海外市場を攻略するために、いきなり物理的に「外」へ出るのではなく、日本国内にすでに存在する外国人や訪日観光客を出発点とする。この発想の転換は、①リスクを抑え、②顧客との信頼関係を深め、③段階的かつ持続的に市場を拡大するうえで極めて有効である。

今後、日本企業が人口減少社会を生き抜き、真にグローバルな存在へと成長するためには、この「国内に潜む海外市場」をどう活用するかが大きな鍵を握るだろう。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。