はじめに

少子高齢化が進む日本をはじめ、多くの先進国が労働力人口の減少と社会保障制度の持続可能性に直面している。こうした背景から、中長期在留者の受け入れと社会保障制度への貢献は重要な課題となっている。(参考:社会保障破綻危機:国外追放が事態をさらに悪化させる 2025/07/18 American Immigration Council)中長期在留者は労働力としてだけでなく、税金や社会保険料の支払いを通じて社会保障の財源確保にも寄与している。本稿では、日本国内の状況に加え、海外の成功事例を紹介しながら、中長期在留者による社会保障制度への貢献の実態と意義、課題について論じる。


1. 中長期在留者と社会保障制度の関係性

社会保障制度は高齢者や障害者など生活に困難を抱える人々を支えるための制度であり、労働者が支払う保険料や税金によって成り立っている。人口構成の変化で労働人口が減少する中、社会保障費の増大に対応するためには、保険料を納める働き手の確保が不可欠である。

中長期在留者は、特に日本のサービス業、建設業、介護分野などの労働力不足を補う重要な役割を担っている。彼らが社会保険に加入し、保険料を納めることで、社会保障財政の安定化に寄与している。


2. 日本における中長期在留者の社会保障貢献

2-1. 労働力人口の補完

日本では2019年に「特定技能」在留資格が新設され、単純労働分野でも外国人労働者の受け入れが拡大した。厚生労働省のデータによれば、2023年時点で国内の外国人労働者は約230万人に上り、全就労者の約3.4%を占めている。特に介護、建設、農業、宿泊・飲食業などで多くの中長期在留者が活躍している。

2-2. 社会保険料の納付

中長期在留者は健康保険、年金保険、雇用保険などの社会保険制度に加入し、保険料を納めている。外国人労働者の保険料納付は社会保障制度の財政を支える重要な柱の一つだ。社会保険料の未納問題が一部で指摘されるものの、制度への加入促進やルール整備が進んでいる。

例えば、介護分野で働く外国人は介護保険料を納めつつ、将来的には介護サービスの受給権を得ることも期待されている。これにより、労働者の生活保障が強化されるとともに、制度の持続可能性が向上する。

2-3. 税収への貢献

所得税や住民税も外国人労働者の重要な税収源となっている。これらの税金は地方自治体の財政や公共サービスの維持に資している。中長期在留者が地域社会に定着することは、税収の安定的な確保に寄与する。


3. 海外の成功事例

3-1. ドイツの移民政策と社会保障

ドイツは移民受け入れを積極的に進める一方、移民の社会保障加入を義務付けている。特にトルコ系移民が労働市場に深く浸透し、年金や医療保険に加入することで社会保障の財政基盤に貢献してきた。

ドイツ連邦統計局の調査によれば、移民労働者は年金保険料の重要な担い手であり、高齢化が進む中での年金制度の持続に寄与している。移民の社会統合プログラムや言語教育も進み、社会保障制度の適切な利用を促進している。

3-2. カナダの包括的移民政策

カナダは「ポイント制」を導入し、高スキル労働者を中心に移民を選定、受け入れている。移民は入国後すぐにカナダの公的医療制度や年金制度に加入し、税金も納めることで社会保障制度を支えている。

カナダでは移民が地域経済に貢献し、特に高齢化が進む州での労働力確保に寄与。政府の多言語支援や職業訓練により移民の社会保障へのアクセスを確保し、相互利益を生み出している。

3-3. アメリカの社会保障基金と移民の役割

アメリカでは合法的な移民だけでなく、多くの不法移民も社会保障番号を取得して税金や社会保険料を納めている。社会保障局の分析によれば、移民は米国の労働市場の重要な部分を占め、特に若年労働力として年金基金の支えとなっている。

また、多くの移民は年金受給資格を満たせないまま離脱しており、これが社会保障基金の赤字圧縮に寄与しているという側面もある。


4. 中長期在留者の社会保障貢献の課題と展望

4-1. 社会保障制度の公平性

中長期在留者の加入促進に伴い、制度の公平性が問われる。日本では外国人の年金受給権確保や保険料納付義務の明確化が進んでいるものの、受給開始後の生活保障に関する課題もある。保険料は納めているが帰国するケースも多く、給付と負担のバランス調整が課題だ。

4-2. 受け入れ環境と社会統合

社会保障加入の前提は労働環境の安定と社会統合である。外国人労働者が安心して働き、生活できる環境整備、言語教育や文化理解の促進が不可欠。これらが不十分だと、社会保障制度への参加や適切な利用が困難となる。

4-3. 長期的な人口構造の変化への対応

労働力人口の減少が続く中、短期的な在留者の受け入れだけでなく、定住を促す政策も重要となる。海外の成功事例では、移民が定住し子孫を残すことで人口減少に歯止めをかけている。日本でも定住促進策と社会保障の包括的な見直しが求められる。


5. おわりに

中長期在留者は労働力としての役割に加え、社会保険料や税金の納付を通じて社会保障制度の持続に大きく貢献している。日本においても制度の整備が進みつつあり、今後の少子高齢化に対応する上で不可欠な存在である。

海外の成功事例に学びつつ、公平性や社会統合の課題を克服し、持続可能な社会保障制度を築くために、中長期在留者の社会参加を促進する政策が求められている。

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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。