高齢化や認知症の増加に伴い、判断能力が不十分になった方々を支援する「後見制度」の重要性がますます高まっています。日本では2000年に成年後見制度が導入されましたが、その運用には多くの課題も抱えています。一方、海外では「本人の意思の尊重」や「自立支援」を重視した制度が採用されており、日本との違いが際立っています。本稿では、日本の後見制度と、ドイツ・フランス・アメリカなど諸外国の制度を比較しながら、それぞれの特徴や違いについて述べます。


日本の後見制度について

日本の成年後見制度は、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つに大別されます。

法定後見制度

法定後見制度では、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型に分かれており、家庭裁判所が後見人を選任します。後見人は本人の財産管理や契約行為の代理・取消しなどを行うことができます。選任される後見人は、親族のほか、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職が務めることもあります。

しかし、日本の法定後見制度は「保護」に重きを置いており、一度後見が開始されると、本人が自らの財産を自由に扱うことができなくなります。この点が「本人の自己決定権を制限しすぎている」との批判につながっています。

任意後見制度

任意後見制度は、将来の判断能力の低下に備え、本人があらかじめ後見人を決めておく制度です。本人がまだ十分な判断能力を有している段階で契約を結び、公正証書によって後見人を指定します。実際に任意後見が発効するのは、本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点からです。

この制度は「自己決定」に基づくものであり、自由度が高い反面、発動に手間がかかることや、制度自体の認知度が低いため利用が進んでいないという課題があります。


ドイツの後見制度(Betreuung)

ドイツの後見制度は1992年に大きく改正され、従来の「無能力者制度」に代わって「Betreuung(支援制度)」が導入されました。これは、「保護」よりも「支援」を重視する考え方に基づいています。

後見人(Betreuer)は、本人が支援を必要とする分野に限定して選任されます。たとえば、医療に関する決定だけを支援したり、財産管理のみを担ったりするなど、柔軟な制度設計が特徴です。すべての権限を包括的に委ねる日本とは異なり、必要な支援だけを提供することで、本人の意思や尊厳を最大限尊重しています。

また、後見人は「代理決定」ではなく「意思決定の支援」が役割とされており、可能な限り本人の意見を取り入れながら行動することが求められます。


フランスの後見制度

フランスでは2007年に後見制度が改革され、判断能力の程度に応じた三段階の制度が整備されました。

  1. 司法保護(Sauvegarde de justice):軽度な判断能力低下がある場合に、緊急的・一時的に保護する制度です。
  2. 保佐(Curatelle):日常的な意思決定は本人が行いますが、重要な契約などには保佐人の同意が必要です。
  3. 後見(Tutelle):判断能力が著しく欠如している場合に適用され、後見人が本人に代わって法的行為を行います。

フランスの制度もまた、段階的・個別的な支援を可能にしており、本人の尊厳や自立を守る制度設計となっています。また、社会福祉専門職の関与が強く、専門的な支援を受けられる体制が整っている点も特徴です。


アメリカの後見制度と新しい動き

アメリカでは州ごとに成年後見制度(Guardianship)の法律が異なりますが、共通する傾向としては、判断能力が欠如していると裁判所が認定した場合に、広範な権限を後見人に与える仕組みとなっています。

ただし、従来の制度では、本人の権利制限が大きすぎるという批判があり、近年では「サポーテッド・ディシジョン・メイキング(Supported Decision-Making)」という新しい概念が注目されています。

これは、後見を使わずに、本人の意思決定を支援者が補助する制度であり、本人の自立を保ちつつ必要なサポートを行う仕組みです。家族や友人、支援者などが本人の希望を引き出し、決定を支援する役割を担います。現在ではテキサス州など一部の州で法制化されており、今後さらなる普及が期待されています。


日本と外国の後見制度の比較

これまで見てきたように、日本と諸外国では後見制度に対する考え方や仕組みに明確な違いがあります。

項目日本ドイツ・フランス・アメリカ
基本理念本人保護が中心本人の意思の尊重・自立支援が中心
制度の柔軟性一律的で裁判所関与が強い判断能力に応じた段階的な支援
専門職の関与限定的社会福祉士や支援員の積極的な関与
自己決定権の扱い制限されやすい尊重される傾向が強い
新たな支援形態普及していないサポート型意思決定(SDM)が進行中

おわりに

日本の後見制度は、制度の整備が進んでいるとはいえ、本人の意思や生活の質を十分に尊重しているとは言いがたい状況にあります。一方で、ドイツやフランス、アメリカなどでは、本人の「自立」を前提にした支援型の後見制度が整備されており、日本の制度改革にとって大きな参考となります。

今後、日本でもより柔軟で個人の尊厳を重視した後見制度への転換が求められるでしょう。そのためには、専門職の関与を強化し、制度を利用しやすくする環境づくりや、国民への啓発活動が欠かせません。すべての人が安心して老後を迎えられる社会を実現するために、後見制度の進化は必要不可欠です。

在留・入管関連ニュース

投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。