近年、日本では人手不足を補うために外国人労働者の受け入れが拡大しており、「技能実習制度」や「特定技能制度」がその中核を担っている。これらの制度は単なる労働力の補填にとどまらず、外国人が日本で得た技術や知識を母国に持ち帰り、地元経済の発展や雇用創出に寄与する可能性を秘めている。特に、母国での起業を目指す元実習生や特定技能者たちの挑戦と成功は、制度の国際的な価値を示す重要な事例である。

技能実習制度と特定技能制度の概要

技能実習制度は1993年に始まり、「技能移転」を通じた国際貢献を目的としている。建設、農業、介護など幅広い分野で、日本の現場で働きながら専門的な技術や知識を学ぶことができる。一方、2019年に創設された特定技能制度は、より高度な技能や即戦力となる外国人労働者を対象とし、一定の日本語能力や技能試験の合格が求められる。これにより、従来の技能実習生よりも長期間かつ柔軟な形で日本での就労が可能となっている。

日本での経験が起業に与える影響

日本での就労を通じて、外国人は単なる技術だけでなく、品質管理、時間厳守、安全意識、サービス精神など、日本独特の「仕事観」を学ぶ機会を得る。また、職場での人間関係や生活の中で日本語能力も向上し、国際的な視野を持つ人材へと成長していく。これらの経験は、母国に帰った後のビジネス展開において大きな武器となる。

起業成功の鍵:ネットワークと支援制度

起業の成功には、個人の努力だけでなく、さまざまな支援やネットワークの存在が不可欠である。多くの元技能実習生や特定技能者は、在日中に日本企業や支援団体とのつながりを築き、帰国後もそれを活用して事業展開を行っている。

また、最近では日本の中小企業が、元実習生との信頼関係をもとに、現地での合弁会社設立や技術供与といった形で現地展開を進めるケースも増えている。これは、実習生が単なる「出稼ぎ労働者」ではなく、日越・日比など両国をつなぐ「人材資本」として認識されていることを示している。

課題と展望

とはいえ、帰国後の起業にはさまざまな課題も存在する。たとえば、現地での融資制度の整備不足や、ビジネス環境の不透明さ、あるいは社会的な偏見などが、起業の妨げとなる場合もある。また、日本での経験が必ずしもそのまま通用するとは限らず、現地ニーズとのギャップに悩むケースも少なくない。

そのため、起業支援の観点からは、帰国後のフォローアップ体制の強化や、両国政府間の連携による支援制度の整備が重要である。また、在日時からの起業準備、たとえばビジネスモデルの設計やマーケティングスキルの習得などを支援するプログラムの充実も期待されている。

おわりに

技能実習や特定技能を通じて日本で働いた外国人が、母国で起業を果たす事例は着実に増えており、それは彼らの努力と日本社会で得た経験の結晶である。こうした成功例は、単に個人のキャリアの成功にとどまらず、地域経済の活性化や国際的な人的交流の促進にも寄与している。

今後は、こうした「経験の循環」を制度的に後押しすることで、真に持続可能な国際人材育成が実現されることが期待される。技能実習や特定技能が、単なる労働受け入れ制度ではなく、「未来の起業家を育てる舞台」として機能するためには、官民のさらなる連携と支援が鍵となるだろう。


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投稿者: kenjin

行政書士の西山健二と申します。 外国人の方々が日本で働き、暮らすために必要な在留資格の各種申請手続を支援します。